・戸籍の苗字や名前は変えられるの?
・改名手続きって、じぶんでできるの?
・苗字や名前を変更するのに必要な書類は?
改名手続きを初めて行う場合、さまざまな疑問や不安があると思います。
また、この記事を読まれて「え?戸籍の苗字や名前は変えることができるの?」と思われた方もいるかと思います。
戸籍上の苗字や名前は「家庭裁判所の許可」を得て「役所へ届出」すれば変更できます。
それでは苗字や名前は簡単に変えれるのでしょうか?
この記事では、年間2500件以上の改名相談に対応している司法書士が、改名手続きの進め方や注意点、許可を得るための方法などを解説します。
目次
改名手続きについて
どんな手続きが必要?
戸籍上の苗字・名前を変えるには、原則「家庭裁判所の手続き」が必要となります。
家庭裁判所での苗字・名前を変える手続きには、次のようなものがあります。
・氏の変更許可の申し立て
…苗字・姓を変更する手続き
・名の変更許可の申し立て
…下の名前を変更する手続き
・子の氏の変更許可の申し立て
…子どもが父又は母の苗字に変更する手続き
苗字と名前どちらも変更されたい方は、「氏の変更許可の申し立て」「名の変更許可の申し立て」両方の申立をする必要があります。
なお例外的に家庭裁判所の手続きなく、苗字を変更できるのは次の8通りです。
※下の名前の改名は家庭裁判所の手続きが必須となります。
1.結婚時に配偶者の姓に変更
2.離婚時に元の姓に変更 ※
3.配偶者の死別後、結婚前の姓に変更
4.外国人と結婚し配偶者の姓に変更(6か月以内)
5.外国人と離婚して元の姓に変更(3カ月以内)
6.父母の再婚により子と親の氏が異なり、子が父母と同じ氏に変更
7.養子縁組により、養親の姓に変更
8.離縁により、養子が縁組前の姓に変更
※離婚時に結婚時の姓を名乗る選択をした場合、離婚してから3か月以内に旧姓に戻す場合でも家庭裁判所の許可が必要となります。
条件は?
家庭裁判所から改名を許可してもらうには次の条件を満たす必要があります。
「氏の変更」 戸籍法第107条
やむを得ない事由によって氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
「名の変更」 戸籍法第107条の2
正当な事由によって名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
つまり、
苗字を変更する場合「やむを得ない事由」が、
名前を変更する場合「正当な事由」が、
必要となります。
それでは、家庭裁判所は、どのような観点から「やむを得ない事由」や「正当な事由」があると判断するのでしょうか?
裁判所のHPでは「やむを得ない事由」とは「氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合」を言い、「正当な事由」とは「名の変更をしないとその人の社会生活において支障を来す場合」としており「単なる個人的趣味,感情,信仰上の希望等のみでは足りない」としております。
また過去の判例では、次のような観点からも判断されています。
・改名の動機の正当性
・改名の必要性
・改名による社会的影響
つまり、認められる改名理由というのは、
「氏または名前で社会生活において(著しい)支障を来している」「改名の動機が正当である」「改名の必要性が高い」「改名による社会的影響が小さい」ものになります。
「やむを得ない事由」「正当な事由」の具体例
「やむを得ない事由」「正当な事由」の具体例としては、どのようなものがあるのでしょうか?
次の内容は家庭裁判所が例に挙げているものです。
「やむを得ない事由」
1.婚姻前の氏に戻したい
2.婚姻中に称していた氏にしたい
3.外国人の配偶者の氏にしたい
4.奇妙な氏である
5.むずかしくて正確に読まれない
6.通称として永年使用した
7.外国人の父・母の氏にしたい
8.外国人の配偶者の通称にしたい
「正当な事由」
1.奇妙な名である
2.むずかしくて正確に読まれない
3.同姓同名者がいて不便である
4.異性とまぎらわしい
5.外国人とまぎらわしい
6.神宮・僧侶となった(やめた)
7.通称として永年使用した
ただし、これらは家庭裁判所が上げている具体例であり、「この理由に該当すれば許可が降りるというわけではありません」。
具体的な例で言うと正当な事由に「神官・僧侶になった(やめた)」とありますが、神官・僧侶になってもその実績が浅い場合、却下されることが多くあります。
それではいったい、どのようなものが認められやすい理由、認められにくい理由となるのでしょうか?
認められやすい理由・認められにくい理由
過去の判例上、認められやすい傾向の理由・認められにくい傾向の理由としては次のようなものがあります。
「王子様」という名前から「肇」という名前への改名で話題になったキラキラネーム(奇妙・難読な名前)の改名は、変更前後のお名前、年齢等の内容次第となります。
その他の理由による変更許可の傾向は「15の事例で改名理由を徹底解説」や下記の記事をご参照ください。
・通称名へ変更
・赤ちゃんの名前を改名
・キラキラネームを改名
・シワシワネームを改名
・名前を漢字からひらがなに変更
・いじめを理由に名前を変更
・子供が親の旧姓に苗字を変更
・子供が親と縁を切るため改名
・離婚後、旧姓に戻す
・離婚後、旧姓から結婚時の姓に変更
・結婚後、離婚せず妻の旧姓に変更
・事実婚(内縁)の妻、子供が夫の苗字に変更
・同性婚のパートナーの苗字に名前変更
・ストーカー・DVから逃れるため改名
・宗教団体から逃れるため改名
・精神的苦痛を理由に名前変更
・珍しい苗字を変更
・姓名判断を理由に名前変更
・犯罪歴を隠すため改名
・同姓同名の人がいるため改名
・性同一性障害を理由に変更
・僧侶が僧名に名前変更
・源氏名へ名前変更
・外国人夫婦の苗字・名前変更
・複合姓(ダブルネーム)への変更
・戸籍にミドルネームを追加
・帰化後に日本風の苗字に変更
・外国人の親の名前に変更
・二重国籍者の苗字・名前の変更
・養子縁組した養子の名前を変更
・養子の苗字を養子縁組前の苗字に変更
・養親の死後、養子が縁組前の苗字に変更
※読み方や字体を変更方法は、「苗字・名前の読み方の変更方法」「戸籍の漢字を俗字、正字に変える方法」をご参考下さい。
誰が手続きできるの?
家庭裁判所で改名の申立てができる人は、次の通りです。
・戸籍の筆頭者及び配偶者
・父又は母が外国人の方
・名前を変更する本人
※申立人が15歳未満のときは,親権者等の法定代理人が手続きをします。
外国人の父又は母の苗字に変更する場合を除き、戸籍の筆頭者でない子供は、例え18歳以上であったとしても氏の変更申立をすることができません。
子供が18歳以上の場合、「分籍」をして戸籍の筆頭者となることで、氏の変更申立をすることが可能になります。
また、次のように本人のみできる手続き、本人以外でもできる手続きがあります。
家庭裁判所での参与官や裁判官からの事情聴取、審問
※弁護士は本人の代わりに対応可能
書類の作成・受取、家庭裁判所へ申立書の提出
なお、家庭裁判所で改名ができるのは、日本に国籍を有する方のみです。
外国籍の方が、名前を変える方法については、「日本に住む外国籍の方が名前を変更するには?」をご参考下さい。
どこで手続きするの?
改名の申立をする家庭裁判所は「氏の変更」「名の変更」どちらも住所地の家庭裁判所です。
申し立てをする家庭裁判所が、どちらになるかは「改名手続きの管轄一覧」をご参考下さい。
費用・料金は?
1.収入印紙800円
2.郵便切手200円~2000円ほど
3.(氏の変更場合)許可後 収入印紙150円
※家庭裁判所での実費です。交通費、郵送費、戸籍謄本代などは除いております。
郵便切手の金額は裁判所によって異なります。
郵便切手の金額を調べられたい方は、「【全国版】改名手続きでの郵便切手金額一覧」をご参考下さい。使用しなかった切手は、手続き後返却されます。
郵便切手の金額 | ||
氏の変更 | 名の変更 | |
東京家庭裁判所 | 500円×2枚 110円×7枚 | 500円×2枚 110円×7枚 |
大阪家庭裁判所 | 110円×5枚 | 110円×5枚 |
福岡家庭裁判所 | 500円×2枚 110円×7枚 | 500円×2枚 110円×7枚 |
※令和6年12月更新。支局によっても金額が異なります。
必要な書類は?
改名申立時に家庭裁判所へ必要となる書類は次の通りです。
①申立書
こちらは家庭裁判所にあげられている申立書の記載例です。
「氏の変更許可申立書」「名の変更許可申立書」の1P目については、記載例に沿って記載して頂ければ作成できますが、2P目の申立理由については慎重に作成する必要があります。
適切な申立理由や記載方法は、「改名の申立理由15事例を詳しく解説」や「改名を自分でする際の注意点」をご覧頂ければ幸いです。
②戸籍謄本
発行から3か月以内の申立人の戸籍謄本が必要になります。抄本ではなく、謄本(全部事項証明書)を添付しましょう。
また申立の内容によっては戸籍謄本だけでなく除籍謄本、改製原戸籍謄本などが必要になります。
旧姓や婚姻時の姓に変更する場合
旧姓や婚姻時の姓に変更する場合は、下記の書類が必要となります。
旧姓時の戸籍謄本(改正原戸籍・除籍謄本等)~今現在の戸籍謄本
婚姻時の戸籍謄本 (改正原戸籍・除籍謄本等)~今現在の戸籍謄本
本籍地が遠方の方は、戸籍謄本を郵送で取得することも可能です。
「○○役所 戸籍 郵送」とインターネットで検索して頂ければ、請求方法が出てきます。
③氏・名の変更理由を裏付ける資料
申立理由の内容によっては、それを裏付ける資料が必要になります。
ここでは名の変更の資料として代表的な通称名について解説します。
通称名を理由に変更する場合
通称名を理由に変更する場合、裏付ける資料としては、昔から今現在まで通称名を使用していたことが分かる書類のコピーを提出します。
・公共料金の明細
・年賀状
・手紙
・結婚式の招待状、席次表(座席表)
・注文書・納品書
・成績表
・卒業証書
・メール
・契約書
・名刺
・会社パンフレット
・新聞、地域紙(自分のことが掲載されているもの)
・健康保険証(会社が通称名で登録している場合)
友人・知人・会社関係・公共性の高いものを中心に、年代はまんべんなくご準備ください。
また、通称名であれば、どのような名前・理由でも、変更できるというわけではありません。
詳しくは、「通称名とは?実績の積み方や使用できる範囲を解説」をご覧ください。
期間・日数は?
改名にはどのくらいの期間がかかるでしょうか?
「苗字の変更は1~3か月」ほど、「名前の変更は1、2カ月」ほどかかることが多いですが、地域や申立内容、時期によって大きく異なり、半年、1年ほど待つ場合もあります。
氏の変更の期間
一般的な期間:25日~60日
1.家庭裁判所へ申立準備:1日~7日 ※①
2.家庭裁判所の手続き:7日~30日 ※②
3.変更許可の審判確定:14日 ※③
4.役所の手続き:1日~7日 ※④
※①戸籍謄本の取得、申立書の作成等
※②照会書の提出、審問、審判書の通知等
※③姓(氏) を変更する場合、許可が降りてから14日を経過しなければ変更できません。
※④戸籍謄本の取得、氏・名の変更届の提出等
名の変更の期間
一般的な期間:10日~45日
1.家庭裁判所へ申立準備:1日~7日 ※①
2.家庭裁判所の手続き:7日~30日 ※②
3.役所の手続き:1日~7日 ※③
※①戸籍謄本の取得、申立書の作成等
※②照会書の提出、審問、審判書の通知等
※③戸籍謄本の取得、氏・名の変更届の提出等
許可後の手続きについては、「お名前変更許可後の手続きについて」に詳細に記載しております。
申立に適切な時期は?
申立の時期を意識して頂きたい方は、「赤ちゃんのお名前を変えたい方」です。
赤ちゃんの改名について、通称名の実績を3年程積んで変更するのも1つの方法ですが、赤ちゃんは改名をしても社会的に影響を及ぼすことが少ないという観点から許可が認められやすい傾向にあります。
そのため基本的には、早い段階で申し立てすることをお勧めします。
ただし申立理由によっては却下されますので理由書の内容は注意して作成下さい。
「赤ちゃんの名前を確実に改名するための方法」もご参照ください。
改名申立後の手続きについて
申立後にすることは?
家庭裁判所へ苗字・名前の変更の申立後にする事は次の通りです。
必ずどちらも行われるという訳ではありません。
書面照会だけ、審問、参与員の聴き取りだけ行われる場合もあれば、全て行われる場合、何も行われない場合もあります。
管轄の家庭裁判所が、どの手続きをするかを決めていくので、申し立てをした後は、家庭裁判所から連絡を待ちしましょう。
書面照会、審問とは?
書面照会(照会書)とは?
苗字・名前の改名の申立後、家庭裁判所から上記のような書類が送られてくる場合がございます。
書面照会とは、申立後、裁判所が確認したい内容を書面で送付され、その質問の内容について書面で返答することをいいます。
裁判所宛の返信用封筒も付いており、内容を記載し一定の期日(基本的には2週間)までに返送します。
「家庭裁判所から来た照会書・回答書の書き方と注意点」もご参考下さい。
審問・参与員の聴き取りとは?
苗字・名前の改名の申し立てをすると、家庭裁判所から面談のための期日調整の連絡がある場合がございます。その日程が決まると上記のような書類が送られてきます。
審問・参与員の聴き取りとは、申立人や法定代理人が家庭裁判所に出廷し、参与員・裁判官から確認したい内容について質問され、それに答えていく手続きの事をいいます。
海外在住の方は面談が省略される傾向にあります。
聞かれる内容やどのような点に注意すべきかは、「裁判所の面談で一番注意する事と質問内容」をご参考下さい。
期間・日数は?
一般的には、申立後、1.2週間ほどで家庭裁判所から連絡がありますが、忙しい家庭裁判所では何カ月も連絡がない場合もあります。
不安な方は家庭裁判所に進捗の確認をすることも可能です。
家庭裁判所での改名手続きの進め方は、次の4パターンあります。
①書面照会のみ
②裁判所から面談の日程調整の連絡→参与員の聴き取り・審問
③書面照会→裁判所から面談の日程調整の連絡→参与員の聴き取り・審問
④書面照会・審問など無く改名の許可
一般的には①②のパターンが多く、それぞれ1.2カ月ほどかかる場合が多いです。
③の場合、2.3カ月ほどかかるときもあれば、④の場合、申し立てをしてから1週間後に許可審判の通知が来ることもあります。
注意することは?
申立後の注意点
申立後に、注意することは、出廷の連絡があったときは、必ず出廷をするということです。
当たり前のように聞こえるかもしれませんが、裁判所から、「今回は変更の許可は厳しいかもしれません。」と伝えられると、改名を諦められる方がいます。
しかし、追加の書類を提出するなど出廷をして許可がおりる場合もございます。
厳しいと伝えられた方が出廷することは精神的な負担も大きいかと思いますが、出廷をして、今後改名に不利になるということはございませんので、出廷して頂けたらと思います。
面談時の注意点
出廷される際に、気を付けて頂きたいのは、服装です。
一部の方で、服装は参与員・裁判官の心証には関係のないといわれる方がいます。
理論的には、そうかもしれませんが、裁判官も人なので全く影響がないわけではないと思います。
裁判においては、ジャージ等を避け、清潔感・さっぱりした感じの服装、できればスーツなどを着用して、裁判所へ行きましょう。
金髪の方は黒髪に、入れ墨やタトゥーがある方は見えないようにしておきましょう。
結果の連絡方法は?
書面照会(照会書)、審問等が終わると、面談日当日に結果が言い渡されるか、1,2週間前後で通知されます。
裁判官の改名申立についての判断を審判と言い、許可されれば許可審判書が、却下されれば却下審判書が通知されます。
却下の場合は、事前に取り下げを催促される場合もございます。
なお、姓の変更については、変更許可後、家庭裁判所へ確定証明書を請求する必要があります。確定証明の申請書は、許可審判書と同封されて送付されます。
確定証明書の詳しい内容は「確定証明書とは?いつ届くの?見本・書式付きで手続きを解説」をご参考下さい。
取下げた場合や却下された場合は?
万が一、取り下げをした場合は、通称名などの実績を積んで、再度申立をすることが一般的です。
却下された場合は、即時抗告という不服の申立をすることができます。
それぞれの対策を「改名を取下げるべき?却下された場合の対策方法」に詳しく記載しております。
改名許可後の手続きについて
無事に姓(氏)・名前の改名が許可された後は、 氏、名の変更届を本籍地または所在地の市区町村役所へ提出する必要があります。
忙しい方は郵送で提出することもできます。
氏または名の変更届を提出することで戸籍謄本の名前、住民票の名前が変更されます。
役所への氏または名の変更届には期限がありませんが、役所によっては、審判がおりて届出までに2週間以上経過をしている場合は、その理由を求めるところもあります。
1.戸籍謄本、住民票の変更
2.マイナンバーの変更
3.健康保険、年金の変更
4.パスポートの変更
5.印鑑登録の変更
6.運転免許証の変更
7.銀行等の口座名義の変更
8.クレジットカード等の名義変更
9.不動産登記の変更
10.生命保険、医療保険等の変更
11.車検証、自賠責保険等の変更
改名後の手続きについては「名前の変更許可後の手続きを徹底解説!改名した戸籍謄本の画像あり」でどこよりも詳細に記載しておりますのでご参考下さい。
改名後の戸籍の記載
改名後の戸籍内容については、「改名後の戸籍|苗字・名前の内容【見本付き】」や「戸籍謄本の見本一覧|様々な手続き後の戸籍を解説」に記載しておりますのでご参考下さい。
まとめ
キラキラネームでお名前を改名されたい方、性同一性障害で氏名を変更されたい方、外国人のような名前にされたい方、犯罪経歴があり、就職するため改名したい方、親からつけられた名前を呪いのように思っており変更されたい方、沢山の方が改名を望まれていると思います。
この記事が改名されたい方たちの一助になればと思います。
とても長い文章をお読み頂きありがとうございました。
この記事を読まれた方が無事に改名されることを願っております。