旧姓に戻そうと思うと、さまざまな疑問や不安が出てくると思います。
この記事は「年間100件以上、旧姓に戻す手続きの相談に対応している司法書士」が「旧姓に戻す手続き」について解説しています。
旧姓に戻す方は是非ご参考下さい。
目次
旧姓に戻るのに必要な手続きは?
離婚後、旧姓に戻すには、どのような手続きが必要なのでしょうか?
離婚と同時に旧姓に戻す場合
結婚時に相手の苗字に変更した人は、「離婚届を提出すること」で、婚姻前の苗字に戻ります。
離婚届で戻せるのは、あくまで婚姻前までの苗字なので、再婚などで苗字がA→B→Cと変わったCさんがAの苗字に変更するには「家庭裁判所の許可」が必要です。
また離婚の日から3カ月以内に「離婚の際に称していた氏を称する届」(婚氏続称届とも言われます)を提出することで、離婚後も結婚時の苗字を名乗ることができます。
配偶者が亡くなった場合
配偶者がお亡くなりになった後に旧姓に戻す場合は「復氏届」を役所へ提出することで婚姻前の姓に戻すことができます。この届出だけでは姻族関係は終了しません。
離婚後、結婚時の苗字を名乗っていた人が旧姓に戻す場合
離婚後も結婚時の苗字を名乗っている人が旧姓に戻す場合や、苗字がA→B→Cと変わったCさんが出生時のAの苗字に戻す場合、役所の手続きに加えて「家庭裁判所の許可」が必要となります。これは離婚後、何年も経過している場合はもちろん、離婚日から3か月以内であっても同様です。
また「家庭裁判所の許可」には一定の条件を満たす必要があります。家庭裁判所の手続きは後程、詳しく解説します。
子供の苗字はどうなるの?
親が苗字を旧姓に戻すと子供の苗字はどうなるのでしょうか?
離婚届や復氏届で旧姓に戻る場合
離婚届や復氏届など親が役所の手続きだけで旧姓に戻す場合、親だけが結婚時の戸籍から出ていき、子供は元の戸籍に残ったままとなります。
また子供の苗字が自動的に旧姓に変更されることはありません。
子供を旧姓に戻した親の戸籍に入れるには「子の氏の変更許可申し立て」が必要となります。
子の氏の変更許可申立ての詳しい手続きは「子の氏の変更許可申立とは?申立書や必要書類を丁寧に解説」をご参考下さい。
家庭裁判所の手続きで苗字を変更する場合
離婚後、家庭裁判所の手続きにより苗字を旧姓に変更した場合、同じ戸籍にいる全員の苗字が自動的に旧姓に変更されます。
これは子供が成人しているかどうかに関わらず、同じ戸籍に子供がいれば子供の苗字も旧姓に変更されます。
子供の苗字は変えず親だけ旧姓に戻るには?
子供の苗字は変えず親の苗字だけ旧姓に戻す方法には次のようなものがあります。
・離婚時、子供に離婚相手の戸籍に残ってもらう
・旧姓に戻す親の戸籍に子供が入籍している場合、再度、離婚相手の戸籍に入籍してもらう
・子供が分籍届出を提出し、親の戸籍から出た後に苗字を変更する
※分籍届は子供が18歳以上の場合にできます。
上記の方法は、戸籍の状況次第なので1つの方法程度に参考にして下さい。
注意点としては、離婚相手の戸籍に子供を入れる場合、「子の氏の変更許可申立て」が必要となり、離婚相手の同意や離婚相手が再婚している場合、その再婚相手の同意が必要になる場合がございます。
次のような記事もございます。ご参考下さい。
「子の氏の変更手続きを丁寧に解説|父の姓から母の姓へ変えるには?」
「離婚後、子供の戸籍を父親に残すメリット、再婚時の注意点を解説」
家庭裁判所の手続きについて
離婚後も結婚時の苗字を名乗っている人が旧姓に戻す場合や、苗字がA→B→Cと変わったCさんが出生時のAの苗字に戻す場合、「住所地」を管轄する家庭裁判所で「氏の変更許可申立」の手続きを行う必要があります。
ご自身が申し立てする家庭裁判所がどこになるかは「家庭裁判所の管轄一覧」をご参考下さい。
条件は?
家庭裁判所に氏の変更を許可してもらうには、どのような条件を満たす必要があるのでしょうか?
条文には次のような記載があります。
「氏の変更」 戸籍法第107条
やむを得ない事由によって氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
つまり、苗字を変更するには家庭裁判所から「やむを得ない事由」があると判断される必要があります。
それでは家庭裁判所は、どのような場合を「やむを得ない事由」があると判断するのでしょうか?
裁判所のHPでは「やむを得ない事由」とは「氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合」とし、「単なる個人的趣味,感情,信仰上の希望等のみでは足りない」としております。
また過去の判例では、次のような観点からも判断されています。
・改名の動機の正当性
・改名の必要性
・改名による社会的影響
つまり、「やむを得ない事由」と認めてもらうには、①氏または名前で社会生活において著しい支障を来している、②改名の動機が正当である、③改名の必要性が高い、④改名による社会的影響が小さい、などの要件を満たしていく必要になります。
ただし、家庭裁判所は旧姓への変更について「やむを得ない事由」を緩やかにとらえる傾向にあります。
費用・料金は?
家庭裁判所の「氏の変更許可申立」にかかる費用・料金は次の通りです。
1.収入印紙800円
2.郵便切手200円~1500円
3.変更許可後 収入印紙150円
こちらは家庭裁判所への申立のみの費用で、交通費や戸籍謄本代などは含まれておりません。また、弁護士への依頼費用などは「旧姓に戻す場合の費用と期間」をご参考下さい。
郵便切手は申し立てをする裁判所によって金額が異なります。
郵便切手の金額は「【全国版】家庭裁判所での郵便切手の金額一覧」ご参考下さい。
郵便切手の金額一例
管轄家庭裁判所 | 郵便切手の金額 |
東京家庭裁判所 | 500円×2枚 100円×1枚 84円×6枚 10円×6枚 2円×5枚 |
名古屋家庭裁判所 | 500円×2枚 100円×1枚 84円×6枚 10円×10枚 2円×2枚 |
大阪家庭裁判所 | 84円×5枚 10円×5枚 |
必要な書類は?
①申立書
こちらは家庭裁判所にあげられている申立書の記載例です。
氏の変更申立書はこちらからダウンロードすることもできます。
申立書の1P目については、記載例に沿って記載して頂ければ作成できますが、申立理由については慎重に作成する必要があります。
②戸籍謄本
戸籍謄本は、発行後3か月以内のものが必要です。
申立の際に必要になる戸籍謄本の範囲は次の通りです。
旧姓時から今現在までの戸籍謄本
※最低でも次の戸籍の取得が必要となります。
① 現在の戸籍謄本
② 婚姻期間中の除籍謄本
③ 婚姻前(旧姓時)の除籍謄本
※①②③の期間中転籍されていた場合、更にその間の謄本の取得も必要となります。
離婚、結婚などによって本籍地を変更している場合は、それぞれの役所へ請求する必要があります。
本籍地が遠方の方は、戸籍謄本を郵送で取得することも可能です。
「○○役所 戸籍 郵送」とインターネットで検索して頂ければ、請求方法が出てきます。
郵送で請求するのが難しい方は、氏名変更相談センターで代行取得することが可能です。
※同意書
同じ戸籍に15歳以上の子供がいる場合、その子供の同意書が必要となります。この同意書は「筆頭者の苗字が旧姓に変わる事で子供の苗字も旧姓に変わることについて子供自身も同意している」という内容が記載されています。
15歳未満の子供や、結婚や分籍届などで、すでに親の戸籍から出ている場合、同意書は不要です。
同意書は、こちらからダウンロードできます。
期間・日数は?
こちらの内容は、名古屋家庭裁判所の手続きの目安期間です。
お住いの管轄の裁判所で、手続きの期間に違いはあります。
一般的な期間:25日~60日
1.家庭裁判所へ申立準備:1日~7日 ※①
2.家庭裁判所の手続き:7日~30日 ※②
3.変更許可の審判確定:14日 ※③
4.役所の手続き:1日~7日 ※④
※①戸籍謄本の取得、申立書の作成等
※②照会書の提出、審問、審判書の通知等
※③姓(氏) を変更する場合、許可が降りてから14日を経過しなければ変更できません。
※④戸籍謄本の取得、氏・名の変更届の提出等
詳細な流れは「完全版・改名手続きの流れ」もご参照ください。
認められやすい理由は?
やむを得ない事由があると判断されやすくなる理由としては、どのようなものがあるのでしょうか?
旧姓に戻す家庭裁判所の要件は昔と比べ緩やかになりましたが、現状でも理由によっては却下されますのでご注意下さい。
「やむを得ない事由」があると認められやすくなるような理由としては、次のようなものがあります。
・子供のために婚姻時の姓を名乗ったが子供が成人した
・職場や近隣の方には旧姓を名乗っている
・両親の家業を継ぐ必要がある
過去の許可判例
次の内容は旧姓への変更が認められてきた判例です。
離婚後15年以上婚姻中の氏を続称してきた抗告人(女性)が、婚姻前の氏への変更を申し立てたが却下された事件の抗告審において、〈1〉抗告人が、離婚に際して婚氏の続称を選択したのは、当時9歳であった長男が学生であったためであるが、長男は既に大学を卒業したこと、〈2〉抗告人は、抗告人の婚姻前の氏である○○姓の両親と同居し、その後9年にわたり、両親とともに、○○桶屋という屋号で近所付き合いをしてきたこと、〈3〉両親と同居している抗告人が両親を継ぐものと認識されていること、〈4〉長男も、抗告人が氏を○○に変更することに同意していることからすれば、本件申立てには、戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」があるものと認めるのが相当であるとして、原審判が取り消され、抗告人の氏を○○に変更することが許可された事例
平成26年10月2日/東京高等裁判所/第12民事部/決定/平成26年(ラ)1866号
離婚に当たり婚氏継続の届出をし、その後の再婚で配偶者の氏を称する婚姻届をし、その後再び離婚し再婚前の氏に戻った者が、生来の氏に変更することの許可を求めた事案において、生来の氏への変更を求める場合は、婚姻前の氏と同じ呼称に変更する場合に準じ、それが濫用に当たるものではなく、特に弊害がなければ、これを認めても差し支えないとして、氏の変更を許可した事例
平成11年12月6日/千葉家庭裁判所/審判/平成11年(家)945号
自己の氏を称する婚姻をした妻が、婚姻中に家裁の許可により呼称上の氏を夫の氏に変更し、離婚後再び変更前の氏に戻すことの許可を申し立てた事案について、戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」があるとして、申立てを許可した事例
平成7年9月22日/宇都宮家庭裁判所/審判/平成7年(家)153号
認められにくい理由は?
次のような理由の場合、申立は認められにくいものと思われます。
・申立が恣意的(身勝手)なものである
・社会的弊害などを生じるおそれがある
旧姓、婚姻時への氏変更申立で却下になるものもございます。
過去の判例では、どのような場合却下されたのでしょうか?
過去の却下判例
協議離婚後、離婚の際に称していた氏を称する旨の届出をなした者からの婚姻前の氏への変更申立につき、申立までに8か月以上も経過しており、日常生活においてさしたる障害が生じているわけでもなく、旧姓に復した方がよいとする親、兄弟の期待や申立人の主観的事情に基づくものであるにすぎないから、いまだ「やむを得ない事由」が存するものとは認めがたいとして右申立が却下された事例
昭和55年3月3日/青森家庭裁判所八戸支部/審判/昭和54年(家)665号
離婚後子供を引き取る予定で離婚の際に称していた氏を称する届出をした後、子供を引き取ることができなくなり婚氏を称する意味がなくなったというだけでは、戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」があるとはいえない
昭和52年8月29日/大阪家庭裁判所/審判/昭和52年(家)2136号
前婚の死亡解消後、復氏届をなさないまま前婚以前の旧姓を通姓として使用してきた亡内縁の夫とともに右通姓を使用してきた内縁の妻およびその間の子が、右通姓をもつて一般社会に認識されていたことはうかがえるが、それだけでは右通姓に変更することを許容すべき「やむを得ない事由」があるとはいえない
昭和41年10月18日/札幌高等裁判所/決定/昭和41年(ラ)39号
家庭裁判所へ申立後の手続き
家庭裁判所へ「氏の変更許可申立」をした後は、どのような手続きがあるのでしょうか?
申し立てをした後は裁判所で改名を申し立てした経緯などを聴取される「面談」があったり、郵送で事情聴取する「書面照会」というものがございます。
それぞれ詳しい対策などは「家庭裁判所への申立後にすることとその対策」をご参考下さい。
改名許可後の手続きは?
家庭裁判所から苗字変更の許可が降りた場合、後の手続きは次のような流れになります。
①氏の変更許可の「審判書」を受け取る
②家庭裁判所へ申請し「確定証明書」を受け取る
③役所へ必要書類を持参し「氏の変更届」を提出する
④役所以外で氏を変更する
①許可の審判書を受け取る
家庭裁判所から氏の変更許可がされた場合、許可審判書が発行されます。
これは家庭裁判所で改名申立の面談があったその日に渡されることもあれば、後日郵送で送付される場合もございます。
②裁判所へ確定証明を申請
家庭裁判所から変更許可の審判書を受け取った後は、家庭裁判所へ「確定証明書」を請求する必要があります。「確定証明書」は家庭裁判所が勝手に発行してくれるものではなく、申請しなければ発行してくれません。
この「確定証明書」の説明や申請方法については「確定証明書とは?申請手続きを詳しく解説」をご参考下さい。
③役所へ氏の変更届を提出
家庭裁判所から「審判書」「確定証明書」を受け取ったら役所へ「氏の変更届」を提出します。
提出先
…本籍地または住所地の役所
手続きの期限
…なし(裁判所からはできる限り早くと言われます)
必要な書類
…届出書、審判書、確定証明書
※本籍地以外の役所で手続きをする際は、戸籍謄本が必要となる場合がございます。
※令和3年9月1日より印鑑の押印は任意となっています。
費用
…無料
※郵送で申請することも可能です。
役所にも「氏の変更届」の用紙はありますが、郵送で申請される方や事前に記入されたい方はこちらからダウンロード下さい。
④役所以外で氏の変更を届け出る
役所での手続きが完了し、戸籍や住民票の氏が変更された後の手続きにはどのようなものがあるのでしょうか?
1.マイナンバーの変更
2.健康保険、年金の変更
3.パスポートの変更
4.印鑑登録の変更
5.運転免許証の変更
6.銀行等の口座名義の変更
7.クレジットカード等の名義変更
8.不動産登記の変更
9.生命保険、医療保険等の変更
10.車検証、自賠責保険等の変更
それぞれ詳しい手続きは、「名前変更許可後の手続き」の記事もご参考下さい。
苗字変更後の戸籍の見本
家庭裁判所の許可を得て旧姓へ変更した場合、戸籍には次のように記載されます。
戸籍事項:氏の変更
【氏変更日】令和〇年〇〇月〇〇日
【氏変更の事由】戸籍法107条1項の届出
【従前の記録】(空白)
【氏】〇〇
それぞれの身分事項には何も記載されず、戸籍事項に「氏の変更」した旨が記載されます。この「氏の変更」の事実は転籍などにより新しい戸籍ができたとしても引き継がれる内容です。
家庭裁判所の手続きではなく、離婚した際の戸籍謄本の見本を確認されたい方は「離婚後の戸籍謄本を見本で解説」をご参考下さい。
婚姻や転籍後の戸籍を確認されたい方は「戸籍謄本の見本一覧|様々な手続き後の戸籍を解説」をご参考下さい。
離婚後、子供の下の名前を変更するには?
子供の名前が離婚相手が名付けた名前だから変更したい、離婚後、画数が悪くなったので変更したい、というご相談を頂きます。
弊所では離婚後にお子様の下のお名前を変更した事例は多くあります。次のような記事を弊所で記載しておりますのでご参考下さい。
「離婚後、子供の名前を改名するには?」
「0歳から18歳までの年齢ごとに子供の名前の変更方法を解説」
「赤ちゃんの名前を確実に改名する方法」
「キラキラネームの改名方法」
まとめ
旧姓へ変更する際に気を付けることや必要な手続きは様々あります。この記事が旧姓に戻そうと思われている方々の参考になれば幸いです。
※弊所では次の記事もございます。ご参考下さい。
「旧姓・婚姻時の姓のメリットデメリットは?」
「旧姓に戻す人と戻さない人の割合は?」
「離婚後、子供の名前を改名するには?」
「離婚後の戸籍謄本を見本で解説」
弊所では離婚をされた方の改名業務を基本の料金よりお安くして対応しております。理由としては離婚後は経済的に厳しい状況になることが多いためです。
家庭裁判所の手続きがご不安な方や旧姓に戻すことについてお悩みがある方はお気軽にご相談下さい。