離婚した際、苗字を旧姓に変えなかった人が、実家やお墓を引き継ぐ必要が出てきた、子供が大きくなったなどの理由から、離婚して何年も経ってから旧姓に戻したいことがあるかと思います。

それでは、離婚後、10年、20年過ぎてから、苗字を旧姓に戻すことは可能なのでしょうか?

この記事は、旧姓に戻す手続きを数多く扱ってきた司法書士が「離婚後、何年も経ってから旧姓に戻す手続き」について丁寧に解説しています

離婚して何年も経過した後に旧姓に戻すには?

離婚後、何年もしてから旧姓に戻すには、家庭裁判所の許可役所での手続きが必要です

家庭裁判所と聞くと、ハードルが高く感じられるかもしれませんが、離婚して10年、20年、30年経過した人が旧姓に戻す場合、許可は比較的に下りやすいです

それではどのような手続きが必要なのでしょうか?

旧姓に戻す手続きの大まかな流れは次の通りです。

それぞれ、詳しく解説していきます。

⓪子供がいる場合、子供の戸籍を整える

戸籍謄本

※こちらの内容は、お子様がいない方は読み飛ばしていただき、①家庭裁判所へ氏の変更許可申立を行う」からお読みください。

子供がいる人が旧姓に戻す場合、事前に子供の戸籍を確認しておく必要があります。

理由としては家庭裁判所の手続きで親が苗字を旧姓に戻した場合、戸籍にいる子供の苗字も変更されるからです。

そのため、子供の苗字を変更したくない人は、子供を親の戸籍から抜いておく必要があります。

また、子供の苗字も旧姓に戻したい方は、旧姓に戻す親と同じ戸籍にする必要があります。


それでは、そのような手続きはどのようにするのでしょうか?

子供も苗字を親の旧姓に変更するには?

子供の苗字も親の旧姓に変更するには、子供を親の戸籍に入籍させる必要があります

子供を親の戸籍に入籍させる方法としては、次のようなものがあります。

子供を親の戸籍に入籍させる方法

すでに親と子供が同じ戸籍にいる場合
…特に事前の手続き不要。親が家庭裁判所の手続きで旧姓に戻せば自動的に子供の苗字も変更

親と子供が別々の戸籍にいる場合
子の氏の変更を行い、子供を親の戸籍に入籍させる
※子の氏の変更は旧姓に戻した後でも可能
※状況によっては、親の戸籍に入籍できない場合もあります。

親と子供が別々の戸籍の場合、子の氏の変更許可申立で旧姓に戻す親の戸籍に入籍させることで、子供も親と同じ苗字を名乗ることができます。

入籍させるのは、旧姓に戻す前でも旧姓に戻した後でもどちらでも問題ありません。
※子の氏の変更については「子の氏の変更許可申立とは?」をご参考ください。

ただし過去に子の氏の変更で入籍していた経験がある場合など、一定の場合、子の氏の変更で入籍できない場合がありますのでご注意ください。

子供の苗字は変えずに親のみ旧姓に戻すには?

子供の苗字を変えず、親だけが旧姓に変更するには、子供を親の戸籍から抜いておく必要があります

子供を親の戸籍から抜く方法としては、次のようなものがあります。

子供を親の戸籍から抜く方法

親と子供が同じ戸籍にいる場合
…①子供に分籍届を提出してもらう
※分籍届は子供が18歳以上の場合にできます。
…②子供が結婚、養子縁組などをする
…③離婚相手の戸籍に子の氏の変更で入籍する

親と子供が別々の戸籍にいる場合
…特に手続き不要。戸籍が別々の場合、子供の苗字には影響がないので、そのまま旧姓に戻してOK

子供がすでに結婚などをしている場合、親の戸籍から出ていっているので、親が旧姓に戻しても子供の苗字に影響はありません。

一方、子供が結婚などをしておらず親と子供が同じ戸籍にいる場合、親だけ旧姓に戻すには、子供を親の戸籍から抜く必要があります。

子供が18歳以上であれば分籍届を役所に提出することで、子供を親の戸籍から抜くことができます。

子供が18歳未満の場合、分籍届はできないので、子の氏の変更で離婚相手の戸籍に入籍をさせる必要があります。ただし、離婚相手の戸籍に入籍する場合、離婚相手の同意や離婚相手が再婚している場合、その再婚相手の同意が必要になる場合がございます。

離婚相手の戸籍に入籍させる場合「離婚後、子供を父親の戸籍に残すメリットデメリットを解説」の記事もご参考ください。

①家庭裁判所へ氏の変更許可申立を行う

家庭裁判所

子供の戸籍を整えたら、いよいよ旧姓に戻す手続きをしていきます。

苗字を旧姓に戻すには、「住所地」を管轄する家庭裁判所で「氏の変更許可申立」の手続きを行う必要があります。※管轄の確認は「家庭裁判所の管轄一覧」をご参考下さい。

手続きの期間としては、おおよそ1~3か月ほどかかります。詳細な手続きの流れは「苗字・名前の改名手続きを丁寧に解説」もご参照ください。

申立に必要な書類は?

申立てに必要になる書類は次の通りです。

氏の変更許可申立に必要なもの

申立書 
戸籍謄本
同意書(戸籍に15歳以上の子がいる場合)
収入印紙・郵便切手

①申立書

氏申立書記載例

まず、申立には申立書が必要になります。
上の画像は家庭裁判所にあげられている申立書の記載例です。

申立書はこちらからダウンロードすることもできます。

申立書の2ページ目に申立理由を記載する必要がありますが、こちらはどのように記載すればいいのでしょうか?

申立理由の書き方は?

申立書記載例 旧姓
裁判所の申立理由の記載例

申立理由はどのように記載していく必要があるのでしょうか?

法律上、苗字を変更するには「やむを得ない事由」が求められています。

そのため申立理由を記載する際は、裁判所の人から「やむを得ない事由」があると判断されるように記載していく必要があります。

ただし、家庭裁判所は、離婚して旧姓に戻すことについて「やむを得ない事由」を比較的緩やかに判断しています

そのため比較的、許可は下りやすいです


ただし、許可が下りやすいからと言って理由によっては、却下となる場合もございます。
具体的には、破産歴や犯罪歴を隠すためなど社会的に弊害が生じるような場合や恣意的な理由の場合です。

申立理由の例文

裁判所のHPでは、旧姓に戻す申立理由には次のように記載されています。

1 申立人は、昭和○年に乙川太郎と婚姻し、長男秋男(平成○年○月○日生)をもうけました。
2 申立人は、乙川太郎と平成○年○月○日に協議離婚しました。その際、長男が、当時中学在学中のため、婚姻中の氏を称することとしました。
3 長男は本年3月高校を卒業し、社会人となることとなりましたので、婚姻前の氏である「甲野」に変更する許可を求めます。なお、長男秋男は申立ての趣旨のとおり氏を変更することに同意しています。

裁判所ホームページより

その他、「やむを得ない事由」と認められやすくなるような理由としては、次のようなものがあります。

これらをご参考に理由書を記載いただければと思います。

認められやすい理由

・実家で親と同居する予定である
・職場や近隣の方には旧姓を名乗って生活している
・元夫の親族から旧姓に戻すよう催促されている
・両親の家業を継ぐ必要がある

②戸籍謄本

旧姓に戻す場合、申し立てには「婚姻前の戸籍から今現在までの戸籍謄本」が必要になります。

そのため最低でも
①現在の戸籍謄本
②婚姻期間中の除籍謄本
③婚姻前(旧姓時)の除籍謄本
が必要となります。
またその期間中、転籍や改製されている場合、更にその謄本も必要となります。

※同意書

氏変更 同意書
⇧クリックして拡大

同じ戸籍に15歳以上の子供がいる場合、その子供の同意書が必要となります。この同意書は「筆頭者の苗字が旧姓に変わる事で子供の苗字も旧姓に変わることについて子供自身も同意している」という内容が記載されています。
子供が15歳未満の場合や、子供が結婚や分籍届などで、すでに親の戸籍から出ている場合、同意書は不要です。
同意書は、こちらからダウンロードできます。

③収入印紙・郵便切手

家庭裁判所への申し立てには収入印紙と郵便切手が必要になります。

「氏の変更許可申立」に必要な収入印紙・郵便切手は次の通りです。

氏の変更許可申立の費用

1.収入印紙800円 
2.郵便切手200円~1500円 
3.変更許可後 収入印紙150円

こちらは家庭裁判所への申立のみの費用で、交通費や戸籍謄本代などは含まれておりません。また、弁護士への依頼費用などは「旧姓に戻す場合の費用と期間」をご参考下さい。

郵便切手は申し立てをする裁判所によって金額が異なります。
郵便切手の金額は「【全国版】家庭裁判所での郵便切手の金額一覧」ご参考下さい。

郵便切手の金額一例

管轄家庭裁判所郵便切手の金額
東京家庭裁判所500円×2枚
100円×1枚
84円×6枚
10円×6枚
2円×5枚
名古屋家庭裁判所500円×2枚
100円×1枚
84円×6枚
10円×10枚
2円×2枚
大阪家庭裁判所84円×5枚
10円×5枚

②許可の審判書を受取り、確定証明書の申請を行う

許可審判書

家庭裁判所から氏の変更許可がされた場合、許可審判書が発行されます。
これは家庭裁判所で改名申立の面談があったその日に渡されることもあれば、後日郵送で送付される場合もございます。

改名の確定証明書
⇧氏変更の確定証明書

家庭裁判所から変更許可の審判書を受け取った後は、家庭裁判所へ「確定証明書」を請求する必要があります。「確定証明書」は家庭裁判所が勝手に発行してくれるものではなく、申請しなければ発行してくれません。基本的に必要な申請の用紙は、裁判所が審判書と一緒に渡してくれます。

確定証明書の詳しい内容は「確定証明書とは?申請手続きを詳しく解説」もご参考下さい。

③役所へ氏の変更届を提出する

氏変更届
氏の変更届

家庭裁判所から「審判書」「確定証明書」を受け取ったら役所へ「氏の変更届」を提出します。

氏の変更届について

提出先
…本籍地または住所地の役所

手続きの期限
…なし(裁判所からはできる限り早くと言われます)
 
必要な書類
…届出書、審判書、確定証明書
※令和6年3月1日より戸籍謄本の添付は不要となりました。
※令和3年9月1日より押印は任意となりました。

費用
…無料
※郵送で申請することも可能です。

役所にも「氏の変更届」の用紙はありますが、郵送で申請される方や事前に記入されたい方はこちらからダウンロード下さい。

役所での氏の変更届が完了したら、他の機関でも氏を変更していく必要があります。

具体例として次のようなものがあります。

苗字変更後の手続き一例

1.マイナンバーの変更
2.健康保険、年金の変更
3.パスポートの変更
4.印鑑登録の変更
5.運転免許証の変更
6.銀行等の口座名義の変更
7.クレジットカード等の名義変更
8.不動産登記の変更
9.生命保険、医療保険等の変更
10.車検証、自賠責保険等の変更

それぞれ詳しい手続きは、「名前変更許可後の手続き」の記事もご参考下さい。

苗字変更後の戸籍の見本

戸籍謄本

家庭裁判所の許可を得て旧姓へ変更した場合、戸籍には次のように記載されます

氏変更後戸籍
家裁の許可を得て氏を変更した場合

戸籍事項:氏の変更
【氏変更日】令和〇年〇〇月〇〇日
【氏変更の事由】戸籍法107条1項の届出
【従前の記録】(空白)
 【氏】〇〇

それぞれの身分事項には何も記載されず、戸籍事項に「氏の変更」した旨が記載されます。この「氏の変更」の事実は転籍などにより新しい戸籍ができたとしても引き継がれる内容です。

家庭裁判所の手続きではなく、離婚した際の戸籍謄本の見本を確認されたい方は「離婚後の戸籍謄本を見本で解説」をご参考下さい。
婚姻や転籍後の戸籍を確認されたい方は「戸籍謄本の見本一覧|様々な手続き後の戸籍を解説」をご参考下さい。

まとめ

離婚後、何年も経ってから旧姓に戻す手続きを解説させていただきました。

子供の戸籍を整えるなど注意いただきたい点は様々あり、この記事が旧姓に戻そうと思われている方の参考になれば幸いです。

弊所では離婚をされた方の改名業務を基本の料金よりお安くして対応しております。理由としては離婚後は経済的に厳しい状況になることが多いためです。

家庭裁判所の手続きがご不安な方や旧姓に戻すことについてお悩みがある方はお気軽にご相談下さい。

 

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