国際結婚した場合、苗字はどうなるのでしょうか?
日本では外国人との国際結婚の場合、原則、夫婦は別姓になりますが、届出をすることで夫婦で同じ姓を名乗ることもできます。
また一定の要件を満たせば、お互いの姓を合体させた「複合姓」や外国人配偶者の「通称名」を名乗ることもできます。
この記事では「国際結婚後の日本での苗字の変更手続き」について詳しく解説していきます。
※次のような記事もございます。ご参考下さい。
「海外では結婚後、どんな苗字(ラストネーム)が登録できる?」
「戸籍上の外国人配偶者の氏名を訂正するには?」
目次
国際結婚した場合、苗字はどうなるの?
日本人同士の結婚の場合、夫婦が同じ苗字である必要がありますが、国際結婚の場合、夫婦別姓が認められています。
そのため、日本人と外国人が結婚した場合、原則、夫婦で別々の姓を名乗る事になりますが、届出をすることで同じ姓を名乗ることも可能です。
また一定の要件を満たせば、お互いの姓を合体させた「複合姓」や外国人配偶者の「通称名」を名乗ることもできます。
国際結婚後の苗字の手続き
国際結婚後、苗字についてどのような手続きが必要なのでしょうか?
苗字の手続きについて次の順に解説していきます。クリックすると該当の説明箇所へ移動します。
①日本人と外国人が夫婦別姓にする場合
国際結婚した日本人と外国人が苗字をどちらも変えず、夫婦別姓とする場合、「婚姻届」のみ届出すれば問題なく、夫婦別姓にするための手続きはありません。
「婚姻届」の提出で自動的に相手の苗字に変わることはありません。
②日本人が外国人の苗字に変更する場合
日本人が外国人配偶者の苗字に変更する場合、苗字を変更する時期によって必要な手続きが異なってきます。
①婚姻後6か月以内に外国人配偶者の姓に変更する場合
…役所への届出のみ
②婚姻後6か月以降に外国人配偶者の姓に変更する場合
…家庭裁判所の手続き+役所への届出
①の婚姻後6か月以内に配偶者の苗字に変更する場合、「外国人との婚姻による氏の変更届」を役所に提出することで相手の苗字に変更することができます。
②婚姻後6か月以降に外国人配偶者の姓に変更する場合、「家庭裁判所の手続き」が必要となります。
この手続きは後ほど「家庭裁判所の手続き」にて詳しく解説します。
③外国人が日本人の苗字に変更する場合
外国籍の方が日本人配偶者の姓に変更する場合、役所に通称名の登録をすることで相手の姓を名乗る事ができます。
この通称名とは、本国の名前とは別に日本で使用する名前の事をいいます。
通称名は役所で登録をすることができ、住民票やマイナンバーカード等に記載されるようになります。
役所で登録した通称名は公的な手続きでも使用することができます。
通称の登録方法や通称以外で名前を変更したい場合「日本に住む外国人の名前の変更方法」の記事もご参考下さい。
④日本人が複合姓や外国人の通称名に変更する場合
日本人が複合姓や外国人配偶者の通称名に変更するには、「家庭裁判所の手続き」が必要となります。
これは、結婚と同時に行う場合や婚姻後6か月以内に行う場合でも同様です。
複合姓(複合氏)とは?
複合姓(ふくごうせい)とは、外国人配偶者の名字(ラストネーム)と日本人配偶者の名字を合体させた名字のことを言い、「複合氏」「ダブルネーム」と言われることもあります。
具体的な例で言うと、日本人の「山田花子」さんと外国人の「マイケル・ジョンソン」さんの姓を合体させた「ジョンソン山田」などを複合姓と言います。
複合姓については「複合姓とは?」もご参考下さい。
家庭裁判所での苗字の変更手続き
日本人が次のように苗字を変更する場合、家庭裁判所の手続きが必要となります。
・複合姓(ダブルネーム)に変更する場合
・外国人配偶者の通称名に変更する場合
・婚姻後6カ月を経過して外国人配偶者の姓に変更する場合
・姓として認められないミドルネームを追加する場合
※外国籍の人は家庭裁判所での手続きができません。
※家庭裁判所での手続きは「苗字・名前の変更手続きを丁寧に解説」もご参考下さい。
どの家庭裁判所で手続きするの?
国際結婚した日本人が改名手続きを行う場合、どの家庭裁判所で手続きするのでしょうか?
原則:申立人の住所地を管轄する家庭裁判所
例外:日本に住所がない場合
→ 日本での最後の住所地を管轄する家庭裁判所
再例外:申立人が日本に一度も住所を置いていない場合
→ 東京家庭裁判所
家事事件手続法:第226条,4条,7条
家事事件手続規則:第6条
申立人が子供となる場合で、出生時から海外で生活しており一度も日本に来たことのない場合、親が過去、日本に住んでいたとしても、申立人は子供ですので、この場合、管轄は東京家庭裁判所となります。
海外在住の場合、日本に何回行かないといけないの?
海外在住の方は、改名手続きで日本に何回来ないといけないのでしょうか?
日本での手続きには次のようなものがあります。
①戸籍謄本、住民票等の取得
※日本に在住していない方は、日本に住所があったことを証明する書類も必要になります。
②家庭裁判所への申立
③家庭裁判所での面談
④家庭裁判所からの書類の受け取り
※氏・名の変更届、パスポートの変更届、パスポートの受け取りは海外の日本国大使館、領事館ですることが可能です。
海外在住の方が日本に来て手続きをするのは、かなりの負担となります。
弊所にご依頼頂けた場合、日本でお客様にして頂く内容を次のようにすることができます。
①家庭裁判所での面談
※①の面談も海外在住の方は多くの場合、省略することが可能です。
海外在住の日本人の方で、氏・名の変更での労力を減らされたい方は、氏名変更相談センターをご活用ください。
認められやすい改名理由は?
どのような場合、家庭裁判所は改名を認めてくれるのでしょうか?
まず、家庭裁判所が苗字、名前の変更を許可するかどうかの一つの判断基準に、次の点を考慮して判断していきます。
1.苗字、名前の変更の動機が正当であり、必要性は高いか
2.変更による社会的影響は低いか
これらの要件を満たしている場合、家庭裁判所の許可を得る可能性が高くなります。
この判断基準を具体的にあげると次のようなものがあります。
日本人が外国人配偶者の苗字に変える場合
日本人が外国人配偶者の苗字に変更する場合、次のような点が改名理由のポイントになってきます。
・夫婦関係が分かりやすくなるか
・生活する環境で必要性があるか
・子どもがいる場合、子どもの福祉のためになるか
日本人が外国人配偶者の通称氏に変える場合
日本人が外国人配偶者の通称氏に変える場合、次のような点が改名理由のポイントになってきます。
・外国人配偶者が通称氏を長年使用しているか
・通称氏が社会生活において定着しているか
・子どもがいる場合、子どものためになるか
複合姓(複合氏)に変更する場合
複合姓(複合氏)に変更する場合、次のような点が改名理由のポイントになってきます。
・外国人配偶者の国の法律で複合姓は認められているか
・生活する環境で複合氏が一般的に使用されているか
・子どもがいる場合、子どものためになるか
・どちらもの苗字を引き継ぐ必要があるか
ミドルネーム等を追加する場合
ミドルネーム等を追加する場合、次のような点が改名理由のポイントになってきます。
・日本戸籍への記載が海外でミドルネーム等名乗る要件となっているか
・生活する環境で一般的にミドルネーム等が使用されているか
・海外で居住する予定はあるか
全ての理由に共通して言えることは、通称名の実績があるかということです。
通称名の実績が無くても、変更できる場合もありますが、通称名の実績があって悪く働くことはありません。
通称名につきましては、「通称名とは?名前の変更に必要な改名実績や使用範囲を解説」をご参考下さい。
また、上記の内容はあくまで例です。
個人個人で申立の内容は変わってきますので、様々な観点から改名の必要性を申立理由に記載する必要があります。
必要な書類は?
改名申立時に家庭裁判所へ必要となる書類は次の通りです。
・申立書
・申立人の戸籍謄本
・収入印紙、郵便切手
※外国籍配偶者がいる場合
・外国籍の方のパスポートの写し
・外国籍の方の同意書
※通称名を使用している場合
・通称名を使用していることが分かる書類
※複合姓に変更する場合
・配偶者の国で複合姓の使用が法律上認められていることが分かる資料
※日本に居住していない場合
・海外に在住していることが分かる資料、日本の最後の住所地が分かる資料
申立書
複合姓(複合氏)への変更、日本人が外国人配偶者と同じ苗字にする変更は、氏の変更申立になります。
ミドルネーム等を追加する場合は、氏の変更、名の変更などの申立となります。
申立書は、こちらからダウンロードすることができます。
戸籍謄本
戸籍謄本は、3か月以内に発行されたものを提出します。
海外に在住されている方など、戸籍の取得が厳しい方は、氏名変更相談センターで代行取得することも可能です。
郵便切手・収入印紙
家庭裁判所で氏、名前を変更するのに、必要な費用としては、次の収入印紙・郵便切手代のみです。※家庭裁判所へ出廷するための交通費などは除いております。
1.収入印紙800円
2.郵便切手200円~1500円ほど
3.(苗字変更の場合)許可後に収入印紙150円
郵便切手の金額は裁判所によって異なります。
郵便切手の金額を調べられたい方は、「【全国版】改名手続きでの郵便切手金額一覧」をご参考下さい。使用しなかった切手は、手続き後返却されます。
※外国籍配偶者がいる場合
外国籍配偶者のパスポートの写し
外国人配偶者がいる場合、その方のパスポートのコピーの提出を求められることがございます。
その場合は、顔写真、お名前などの載っている部分のみコピーして頂ければ、問題ありません。
外国籍配偶者の同意書
外国籍配偶者がいて、日本人の苗字を変更する場合、外国人配偶者の同意書を求められることがございます。特段、同意書に様式はございません。
こちらで同意書のダウンロードができますので、必要な方はご利用ください。
※通称名を使用している場合
通称名を使用していることが分かる書類
日本の方が、外国人配偶者の姓、複合姓(複合氏)、ミドルネームなどを実際に使用されているのであれば、その証拠資料を家庭裁判所へ提出します。
使用実績となる資料としては、裁判所の判断にもよりますが、次のようなものがあります。
・公共料金の明細
・年賀状
・手紙
・結婚式の招待状、席次表(座席表)
・注文書・納品書
・成績表
・卒業証書
・メール
・SNS
・契約書(契約相手には通称名であることを伝えておきましょう)
・名刺
・会社パンフレット
・新聞、地域紙(自分のことが掲載されているもの)
・健康保険証
その他の通称名についての注意点は「通称名とは?名前の変更に必要な改名実績や使用範囲などを解説」もご参考下さい。
※複合姓に変更する場合
配偶者の国で複合姓の使用が法律上認められていることが分かる資料
複合姓に変更する場合、婚姻相手の国で複合姓の使用が法律上、認められている資料を提出していくことが重要になります。具体的には、その国の条文などを提出していきます。
氏名変更相談センターにご依頼頂けた場合、その国の複合姓に関する資料の調査を行うことも可能です。
※日本に居住していない場合
海外に在住していることが分かる資料、日本の最後の住所地が分かる資料
海外に居住の日本国籍の方が、名字、名前を改名する場合、日本の最後の住所地が手続きを管轄する家庭裁判所になりますので、最後に日本のどこに住んでいたかを証明する必要があります。
最後の日本の住所地の市役所に、住民票を請求すれば、住まいは海外でも日本にいた際の住民票は発行してくれます。
ただし、日本の最後の住所地が記載されている住民票が欲しい旨を伝えなければ、単純に海外に住所がある住民票が発行されますので、ご注意ください。
また日本に住所を残したまま、海外に住まれている方は、海外での郵便物などを提出することで、日本の住所を残したまま手続きをすることができます。
氏名変更相談センターでは、住民票等の取得も代行で対応しております。
必要な方はご相談下さい。
過去の判例
過去の判例ではどのようなものがあるのでしょうか?
公示されているものは少ないですが、下記の判例がございます。
外国人配偶者と同じ苗字に変更した判例
ドイツ人夫と婚姻した日本人妻から夫の氏への変更を求めた事案において、通称として婚姻以来夫の氏を使用してきたこと、申立人と同一戸籍の者が存しないこと、その生活状況からみて変更しないことによる不都合、不便を生ずることが今後とも予測されることなどに、国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律(昭和59年法律45号)により改正された戸籍法107条2項および改正法附則11条の趣旨を考えあわせると、同条1項の「やむを得ない事由」にに該当する事由ありと認めるのが相当であるとして、右申立が認容された事例。
昭和60年4月11日/岐阜家庭裁判所/審判/昭和60年(家)254号
外国人配偶者と同じ通称氏に変更した判例
外国人配偶者が、通称氏である日本名を出生以来継続使用し、社会生活においても定着している等の事情の下で、日本人配偶者の通称氏への変更は、戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」があるとして、これを許可するのが相当である。
平成22年10月25日/福岡高等裁判所/決定/平成22年(ラ)311号
複合姓(複合氏)の判例
オランダ人夫と婚姻をした日本人女性が、夫婦双方の氏を結合した氏への変更を求めた事案において、国際化が進展してきている社会情勢、このような氏の変更を認めてもわが国の氏制度への支障は考えにくいことを考慮して、戸籍法107条1項に定める「やむを得ない事由」があるとして、申立を認容した事例。
平成6年1月26日/神戸家庭裁判所明石支部/審判/平成5年(家)780号
苗字変更後の手続き
名前を変更した後の手続きにはどのようなものがあるのでしょうか?
一般的には次のような手続きをする必要があります。
1.マイナンバーの変更
2.健康保険、年金の変更
3.パスポートの変更
4.印鑑登録の変更
5.運転免許証の変更
6.銀行等の口座名義の変更
7.クレジットカード等の名義変更
8.不動産登記の変更
9.生命保険、医療保険等の変更
10.車検証、自賠責保険等の変更
名前変更後の手続きは「名前変更後の手続きを詳細解説」にも記載しておりますのでご参考下さい。
国際結婚後の戸籍について
国際結婚すると外国人に戸籍はできるの?
国際結婚をしても外国人が日本国籍を取得するわけではありませんので、戸籍謄本もできません。
日本人配偶者の戸籍に外国人と婚姻した旨が記載されるのみです。
国際結婚すると日本人の戸籍はどうなるの?
国際結婚した場合、日本人の戸籍には次のような記載がされます。
※この内容は日本の方式で婚姻された場合の内容です。
婚姻後の戸籍謄本
身分事項:婚姻
【婚姻日】令和●年●●月●●日
【配偶者氏名】▲▲▲
【配偶者の国籍】●●●国
【配偶者の生年月日】西暦●年●●月●●日
【従前戸籍】●●●●(本籍地)▲▲▲(筆頭者)
※本籍地と違う役所へ婚姻届を提出した場合、次のような文言も記載されます。
【送付を受けた日】令和●年●●月●●日
【受理者】■■市長、■■区長、 ▲▲▲総領事 など
結婚と同時に苗字を変更した場合、次の内容が戸籍に記載されます。
身分事項:氏の変更
【氏変更日】令和●年●●月●●日
【氏変更の事由】戸籍法107条2項の届出
※本籍地と違う役所へ氏の変更届を提出した場合、次のような文言も記載されます。
【送付を受けた日】令和●年●●月●●日
【受理者】■■市長、■■区長、 ▲▲▲総領事 など
その他、海外の方式で婚姻した場合の戸籍の記載や国際結婚で生まれた子供の戸籍がどうなるのかなど詳しい内容は「外国人との国際結婚後の戸籍を見本で解説|子供の戸籍はどうなるの?」をご参考下さい。
まとめ
外国人と国際結婚した場合の苗字の手続きを解説させて頂きました。
国際結婚後、複合姓に変える場合や外国人配偶者の姓に変更する場合、家庭裁判所の許可が必要になりますが、変更許可の要件は決して低くは無く、手続きには細かい知識が必要になります。
国際結婚後、苗字の手続きをご相談されたい方は初回相談無料で対応しておりますので、お気軽に司法書士事務所エベレストまでご相談下さい。