この記事では「性同一性障害を理由とする改名手続き、性別変更の手続き」を掲載しております。
※改名に関する次のような記事もございます。該当される方はご参考下さい。
「同性婚を理由に苗字を変更する方法」
「事実婚、内縁の夫婦の苗字の変更手続き」
目次
改名に必要な手続き
性同一性障害(GID)・トランスジェンダーを理由に名前を改名するにはどうしたらいいのでしょうか?
名前を改名するために必要な手続きは次の2つです。
①家庭裁判所での許可手続き
②市区町村役所へ届出
①家庭裁判所での手続きは、住所地を管轄する家庭裁判所でする必要があります。家庭裁判所の管轄は、「家庭裁判所管轄一覧」よりご参照ください。
家庭裁判所での許可手続きの流れについては、「【完全版】苗字・名前の改名手続きの流れ|変更許可のポイントは?」をご参考下さい。
②市区町村役所への届出は、住所地又は本籍地の市区町村役所でする必要があります。
市区町村役所への届出は、必要書類の提出のみで手続きできますが、家庭裁判所での手続きは、家庭裁判所に改名の必要性を認めてもらい、名前を変更することを許可してもらう必要があります。
家庭裁判所で必要になる書類は?
家庭裁判所で改名の手続きには、どのような書類が必要になるのでしょうか?
「氏・名の変更のお手続きの流れ」にも記載しておりますが、次の書類が必要となります。
申立書
家庭裁判所にあげられている申立書の記載例です。
申立書の中で大事になってくるのが、申立理由の記載方法です。
後ほど記載しております過去の成功事例をご参考下さい。
名の変更申立書のダウンロードはこちらから。
戸籍謄本
戸籍謄本は、発行から3か月以内のものを提出する必要があります。
海外に在住されている方など、戸籍の取得が厳しい方は、氏名変更相談センターで代行取得することも可能です。
郵便切手・収入印紙
家庭裁判所で性同一性障害(GID)・トランスジェンダーを理由に改名するのに、必要な費用としては次の収入印紙・郵便切手代のみです。
他に必要となってくる費用はありません。
1.収入印紙800円
2.郵便切手200円~1500円ほど ※
※申し立てをする裁判所によって郵便切手の金額は異なります。
こちらの記事をご参考下さい。
【全国版】改名手続きで家庭裁判所に提出する郵便切手金額一覧
また管轄の家庭裁判所に連絡をしても、必要な郵便切手の金額を教えていただけます。
診断書について
性同一性障害(GID)・トランスジェンダーを理由に改名する際に一番大事になってくるのが、診断書です。
診断書を頂くまでの流れは下記の通りです。
①お近くのジェンダークリニック、精神科でのカウンセリング
②専門医の方から精神的、社会的苦痛の状態や今までの実体験、今後どのように治療をしていくのかなどを話し合い
③診察、治療を進め、専門医からGID・トランスジェンダーと診断
④診断書発行
だいたい、診断書代は2000円ほどが多いようです。
診断書は精神科でもらうことができますが、記載される内容は精神科によって異なってきます。中には家庭裁判所の改名などに詳しい精神科もあるそうです。
そのようなクリニックに診断書をお願いした方が安心ですね。
また、ホルモン治療や診断書の取得をサポートしている団体もあるようですので、そのような団体を利用するもの一つの方法です。
通称名を使用していることが分かる書類
また、性同一性障害(GID)・トランスジェンダーを理由に改名する場合でも、短い期間でも通称名を使用していることが重要です。
変更したい名前の使用実績となる資料としては、裁判所の判断にもよりますが、次のようなものがあります。
・公共料金の明細
・年賀状
・手紙
・結婚式の招待状、席次表(座席表)
・注文書・納品書
・成績表
・卒業証書
・メール
・契約書(契約相手には通称名であることを伝えておきましょう)
・名刺
・会社パンフレット
・新聞、地域紙(自分のことが掲載されているもの)
・(国民)健康保険証
性同一性障害の方は一定の要件を満たせば(国民)健康保険証に通称名を登録することができます。詳しくは協会けんぽ等のHPをご参考下さい。
性同一性障害(GID)・トランスジェンダーの場合は、通称を理由として名前を変更する場合よりは、使用期間が短く済む傾向があり、1年ほどでも許可がおりる傾向はあります。
通称名についての詳しい内容は「通称名とは?名前の変更に必要な改名実績や使用範囲を解説」をご参考下さい。
申立理由に記載すべき内容
申立書の申立理由にはどのような申立理由を記載すればいいのでしょうか?
改名の申立てが許可されるかどうかは次の観点から判断されます。
1.改名の動機が正当であり、必要性は高いか
2.改名による社会的影響は低いか
これらの観点、過去の判例をふまえてみると、次のような内容は記載した方がいいのではないでしょうか?
・自分が認識している性別と名前が合致していない事で支障をきたしている具体的な事実
・名前を変更しても社会生活等に混乱が生じない事
・通称名の使用実績(どういった場でどのくらい使用しているのか)
※該当する場合
・性別変更のための治療(ホルモン治療等)を受けていること
成功事例・判例
それでは、過去の判例ではどのような内容のものが認められてきたのでしょうか?
次の判例はどちらも許可されたものです。
性同一性障害者である抗告人が、社会生活上、自己が認識している性別とは異なる男性として振る舞わなければならず、男性であることを表す戸籍上の名を使用することに精神的苦痛を感じており、抗告人に戸籍上の名の使用を強いることは社会観念上不当であると認められる一方、名の変更によって職場や社会生活に混乱が生じるような事情も見あたらないことからすれば、変更後の名の使用実績が少ないとしても、抗告人の名を変更することには正当な事由がある。
平成21年11月10日/大阪高等裁判所/決定/平成21年(ラ)1005号
性同一性障害者である男性が、男性であることを示す戸籍上の名を使用することに精神的苦痛を感じており、名の変更によって職場や社会生活に混乱が生じるような事情も認められないという事実関係の下では、変更後の名の使用実績が少ないとしても、名を変更することに正当な事由がある。
未成年の子がいる者について、性同一性障害を理由とする名の変更が許可された事例。性同一性障害者について、日常は女性として生活しているが、戸籍上の名が男性であることを示すものであるため、性別アイデンティティーの維持や社会生活における本人確認などに支障を来していること、現在、性同一性障害に関する治療のガイドラインに沿ってホルモン療法を受けており、最終的には戸籍上の性別を変更する予定であること、少なくとも9か月間余り通称名を使用していて一定の使用実績があることなどの事情の下では、同人に未成年の子らがいるため当分は性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律に基づく性別の取扱いの変更をすることができないとしても、名の変更を認めることにより前記未成年の子らの福祉に悪影響が生ずる具体的なおそれがあることはうかがわれないことからすると、前記通称名への名の変更について「正当な事由」がある。
平成22年10月12日/高松高等裁判所/決定/平成22年(ラ)126号
却下されてしまった場合の対応
万が一申し立てが却下されてしまった場合は、どうすればいいのでしょうか?
方法としては次の方法があります。
・却下の判決をうけてから2週間以内に即時抗告の申立てをする方法
・通称名の実績を積み上げて再度申し立てる方法
・性別変更のための治療(ホルモン治療等)を受けて再度申し立てる方法
却下の判決をうけてから2週間以内に即時抗告の申立てをする方法
家庭裁判所が改名の申立てについて却下をした場合、却下判決に不服がある場合、不服の申立て(即時抗告)をすることができます。
即時抗告をした場合、一旦、審判を下した家庭裁判所が審査します。明らかな間違いなどがあった際には、審判を変更する場合があります。
審判を下した家庭裁判所の判断に変更がない場合、高等裁判所で審査をした後、許可、不許可の審判を下します。
通称名の実績を積み上げて再度申し立てる方法
却下の判断がされた後、通称名で使用実績を積んでから再度、名前の変更許可の申立てをすることが可能です。
使用実績を3年ほど積まれた後に、再度申し立てをすることをお勧めします。
性別変更のための治療(ホルモン治療等)を受けて再度申し立てる方法
実際に性別に対する違和感だけを理由にするのではなく、性別変更のための治療などを受けた後に申立てをする方法があります。
治療の期間を要する場合は、その期間の通称名の実績も交えて申立てをします。
性別変更の手続きについて
また性同一性障害(GID)・トランスジェンダーを理由に改名する場合、一緒に戸籍の性別の変更を考えられている方もいるのではないでしょうか?
弊所では、戸籍の性別の取り扱い変更の申立も対応しております。
性別変更をされたい方は、是非氏名変更相談センターへご相談下さい。
性別変更の手続きについては、家庭裁判所にも記載があります。ご参考下さい。
家庭裁判所HP
性別変更の成功事例・失敗事例
性別の取り扱い変更の申立が認められた判例・認められなかった判例にはどういったものがあるのでしょうか?
認められた判例
出生時に外陰部に異常があり女性として出生届がされた申立人について、その性染色体及び生殖腺の状態並びに男性としての性別自認等からすれば、申立人は男性であるとして、戸籍筆頭者との続柄欄の「長女」を「長男」とする戸簿訂正を許可した事例。
平成11年7月22日/水戸家庭裁判所土浦支部/審判/平成11年(家)23号
外性器異常を伴う新生児の性別の決定について、性染色体の構成等のほか、外性器の外科的修復の可能性、将来の性的機能の予測等をも勘案し、将来においてどちらの性別を選択した方が当該新生児にとってより幸福かといった予測も加えた医療上の判断に基づき、抗告人を女性と認定し、同人を男性とする判断に基づいて戸籍訂正許可申立を却下した原審判を取り消して、戸籍筆頭者との続柄欄の「二男」を「長女」とする戸籍訂正を許可した事例。
平成3年3月13日/札幌高等裁判所/決定/平成1年(ラ)17号
性の転換により戸籍訂正が認められた事例。
昭和32年4月17日/富山家庭裁判所/審判/昭和32年(家)172号
認めらなかった判例
1.性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律に基づき性別の取扱いを男性に変更した者の妻が、婚姻後に、第三者からの精子提供により出産した子につき、非嫡出子とする戸籍の記載が、社会的身分、性別、障害による差別であり幸福追求権を侵害するとの主張が排斥された事例。
平成24年12月26日/東京高等裁判所/第9民事部/決定/平成24年(ラ)2637号
2.性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律により戸籍上の性別を女から男に変更した後に婚姻した夫及びその妻が、第三者からの提供精子によって妻が懐胎、出産した子につき、夫婦間の嫡出子として出生届をしたところ、区長が父の欄を空欄として戸籍に記載したため、父の欄を夫に訂正することを求めた事案において、嫡出親子関係は、生理的な血縁を基礎としつつ、婚姻を基盤として判定されるものであって、民法772条は、妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定し、婚姻中の懐胎を子の出生時期によって推定することにより、家庭の平和を維持し、夫婦関係の秘事を公にすることを防ぐとともに、父子関係の早期安定を図ったものであるから、戸籍の記載上、生理的な血縁が存しないことが明らかな場合においては、同条適用の前提を欠くものというべきであり、このような場合において、家庭の平和を維持し、夫婦関係の秘事を公にすることを防ぐ必要があるということはできないとして、戸籍訂正許可の申立てが退けられた事例。
3.性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に第三者からの精子提供により懐胎した子は、戸籍の記載上、前記審判を受けた夫と生理的な血縁が存しないことが明らかであって、民法772条の適用の前提を欠くものというべきであり、父の欄を空欄とした戸籍の訂正許可申立ては認められない。
生物学的にみて完全な男(又は女)として出生し、戸籍に男(又は女)として記載された者が、いわゆる性同一性障害の治療としての性転換手術を受けて、外形的にみる限り別の性(女又は男)の内・外性器の形状を備えるに至ったとしても、戸籍法113条により戸籍の性別に関する記載の訂正を許可すべき場合に当たらないとして、申立てを却下した原審判が相当とされた事例。
平成12年2月9日/東京高等裁判所/第5民事部/決定/平成11年(ラ)1979号
性転換手術を受け女性となつたとしてなされた戸籍訂正の申立につき、人間の性別は、性染色体のいかんによつて決定されるべきであるとの理由で拒けられた事例。
昭和54年11月8日/名古屋高等裁判所/民事第4部/決定/昭和54年(ラ)208号
改名許可後の手続きについて
名前が無事に改名できた後も必要な手続きは様々あります。
1.戸籍謄本、住民票の変更
2.マイナンバーの変更
3.健康保険、年金の変更
4.パスポートの変更
5.印鑑登録の変更
6.運転免許証の変更
7.銀行等の口座名義の変更
8.クレジットカード等の名義変更
9.不動産登記の変更
10.生命保険、医療保険等の変更
11.車検証、自賠責保険等の変更
改名許可後の手続きについては、こちらで詳細に記載しております。
ご参考下さい。
改名許可後の手続きについて
まとめ
性同一性障害(GID)・トランスジェンダーの方が改名をする際の手続き、注意点等を記載させて頂きました。
この記事を読まれた方にとって、少しでも有益な情報を得て頂ければと思います。
新しい名前で新しい人生を送られることを願っております。