「母方の旧姓を引き継いでいきたい」
「亡くなった父親の苗字に改名したい」
「祖母の名字を引き継ぐものがいなくなってしまうため、祖母の名字に改名したい」
「認知はされていないが、事実上の父親と同じ苗字に変更したい」

様々な理由で子どもが、親や祖父母の苗字、旧姓に変更したいという相談を頂きます。

それでは、どうすれば親の姓、旧姓に変更できるのでしょうか?

苗字の変更方法

手続きする人

苗字を変更する方法と主な違いは次の通りです。

苗字の変更方法と主な違い

①引き継ぎたい姓を名乗っている親族と養子縁組
…確実に苗字を変更できる
…養子が相続人となる

②家庭裁判所で「子の氏の変更許可申立」を行う
…③と比べると認められやすい
…手続きできる人が限られている

③家庭裁判所で「氏の変更許可申立」を行う
…筆頭者であれば手続きができる
…変更するには「やむを得ない事由」が必要

※養親が亡くなり養子縁組前の苗字に戻されたい方は、「死後離縁の手続き」をご参考下さい。

一番確実に苗字を変更できるのが、養子縁組の方法ですが、養子は養親の相続人となるため注意が必要です。
家庭裁判所での改名手続きを行えば、相続人等の法律関係は変わりませんが、裁判所から変更を認めてもらう必要があります。

苗字を改名されたい方が、どの手続きを行えばいいか弊所なりにまとめました。

どの手続きを行えばいいか

養子縁組
・養子による親子関係が発生しても問題ない
・確実に苗字を変更したい

子の氏の変更許可申立
・養子による親子関係は発生させたくない
・親が引き継ぎたい苗字を名乗っている
・子供が筆頭者となっている

氏の変更許可申立
・①②に該当しないが、親の苗字を引き継ぎたい

苗字を母親の旧姓に変更したい場合、母親が現在、旧姓に戻している場合は①②の手続きでできますが、母親が現在、旧姓に戻していない場合、③の手続きを行うか、母親に旧姓に戻してもらった後①②の手続きを行うことになります。
母親の苗字を旧姓に戻す手続きについては「婚氏を旧姓に戻す手続き」をご参考下さい。

なお、戸籍の筆頭者の苗字が変わると同じ戸籍にいる全員の苗字が変更されますので、戸籍の中に苗字を変更されたくない方がいらっしゃる場合、事前にその方は分籍しておく必要があります。
分籍に関しては「分籍とは?分籍のメリットデメリット」「分籍や転籍など様々な手続き後の戸籍の見本一覧」をご参考下さい。

それぞれの手続きの内容について説明します。

養子縁組による変更

親子
養子縁組の手続き

手続きの場所
…市役所
(養親または養子の本籍地または住所地)

届出人
…養親および養子
※養子が15歳未満のときは法定代理人

必要なもの
・届書
・届出人の印鑑
・本人確認書類(運転免許証等)
・戸籍謄本
※届出の役所が養親および養子の本籍がでないとき
・家庭裁判所の許可書謄本
※未成年者を養子にするとき、後見人が被後見人を養子にするとき 
ただし、自己または配偶者の直系卑属を養子とするときは不要

養子縁組をすることで、養親の苗字に改名することができます。

ただし、養子縁組をすることで養子は養親の相続人となります。
つまり、養親が亡くなれば、もちろん養子を含めて協議する必要がありますし、扶養義務が発生する場合がございます

また養子縁組の要件も抑える必要があります。

 普通養子縁組の要件

・養親が成年者であること


・養子が養親の嫡出子、養子ではないこと

 

・養子が養親の尊属、年長者でないこと

 

・後見人が被後見人を養子とする場合は、家庭裁判所の許可を得ていること

 

・配偶者のいる人が未成年者を養子とする場合は、配偶者とともに縁組をすること

※配偶者の嫡出子を養子とする場合は、単独で可能

 

・養子、養親に配偶者がいる場合は、配偶者の同意を得ていること

 

・養子が15歳未満のときは、法定代理人が縁組の承諾をすること
※法定代理人以外に養子の父母で監護をすべき方がいる場合、その同意を得ていること

 

・養子が未成年者の場合、家庭裁判所の許可を得ていること
※自己または配偶者の直系卑属を養子とする場合を除く

家庭裁判所での変更

家庭裁判所の手続きで改名する方法と違いは次の通りです。

裁判手続きと違い

子の氏の変更許可申立
…「氏の変更許可申立」と比べると認められやすい
…手続きできる人が限られている

氏の変更許可申立
…筆頭者であれば手続きできる
…変更するには「やむを得ない事由」が必要

つまり、要件を満たす人は、できる限り「子の氏の変更許可申立」をされることをお勧めします

それぞれ詳しく説明します。また詳細な手続きの流れは、「完全版:子の氏の変更許可申立」「完全版:氏の変更許可申立」もご参考下さい。

子の氏の変更許可申立

家庭裁判所

申立できる人は?

子の氏の変更許可申立で、親の姓に変更できるのは次の通りです。

申立の条件

・引き継ぎたい姓を父または母が現に名乗っている
・姓を引き継ぐ子供が筆頭者となっている

※引き継ぎたい姓を名乗っている親が亡くなっている場合、申し立てできず氏の変更許可申立となります。

つまり、母親の旧姓など、両親が引き継ぎたい姓を名乗っていない場合や引き継ぎたい子供が戸籍の筆頭者がでない場合、「子の氏の変更申し立て」を行うことはできず、「氏の変更許可申立」を行う必要があります。

変更許可の条件は?

子の氏の変更許可申立は、氏の変更と比べると認められやすい手続きですが、次のような方は要件が厳しくなりますので注意が必要です。

注意が必要な方

①申立人が婚姻している
②申立人の年齢が満30歳以上
③親の戸籍に15歳以上の同籍者がおり、変更を同意していない場合

家庭裁判所では主に次ような観点から改名の必要性を判断していきます。

改名の判断基準

1.改名の動機が正当で、必要性が高いか
2.改名による社会的影響は少ないか

これらの要件を満たしている場合、家庭裁判所の許可を得る可能性が高くなります。

具体的な事例では次のようなものがあります。

具体的な事例

・子と親が同居している
・子と親が生計を共にしている
・子がお墓を引き継いで行く必要がある
・子が親の事業を引き継ぐ
・通称名の実績がある
通称名とは?

必要な書類は?

申立書
⇧クリックして拡大

子の氏の変更申し立てをする際、家庭裁判所へ申立書を提出する必要があります。
申立書は下記ボタンからダウウンロードできます。
1枚目の記載については、該当する項目にそのまま記入して頂ければ問題ありませんが、2枚目の内容については、その内容によって変更されるかどうかが決まりますので、よく検討して記入する必要があります。

申立人、父母の戸籍謄本

戸籍謄本は、3か月以内に発行されたものを提出します。
また申立人となる子供の戸籍謄本だけでなく、両親の戸籍謄本も必要となります。
海外に在住されている方など、戸籍の取得が厳しい方は、氏名変更相談センターで代行取得することも可能です。

収入印紙・郵便切手

家庭裁判所で子の氏を変更するのに、必要な費用は次の通りです。

家庭裁判所での実費

1.収入印紙800円
※入籍する子1人につき

2.郵便切手84円~300円ほど

郵便切手の金額は管轄の家庭裁判所によって異なります。

変更を必要とすることが分かる資料

資料の例としては、お墓を引き継ぐためであればお墓の写真、苗字を引き継いで欲しいと記載のある故人の遺言書、会社の事業を引き継ぐのであれば会社謄本、パンフレット、名刺などが該当します。

通称名の資料

実生活で引き継いでいく名字を使用しているのであれば、その証拠資料を家庭裁判所へ提出します。
使用実績となる資料としては次のようなものがあります。

通称名の資料の例

・公共料金の明細
・年賀状
・手紙
・結婚式の招待状、席次表(座席表)
・注文書・納品書
・成績表
・卒業証書
・メール
・SNS(LINEやFacebookなど)
・契約書
・名刺
・会社パンフレット
・新聞、地域紙(自分のことが掲載されているもの)
・健康保険証(会社が通称名で登録してしまうと発生します)

通称名についての詳しい内容は、「通称名へ改名するには?実績資料など名前変更で大事なポイントを解説」をご参考下さい。

氏の変更許可申立

役所

申立できる人は?

「氏の変更許可申立」は、戸籍の筆頭者であれば、どなたでも申立可能です。
結婚している場合、配偶者とともに申立します。

変更許可の条件は?

氏の変更許可申立の場合、「やむを得ない事由」が必要となりますが、子の氏の変更許可申立と同様に、次のような観点から判断していきます。
但し、子の氏の変更より要件は厳格です。

改名の判断基準

1.改名の動機が正当で、必要性が高いか
2.改名による社会的影響は少ないか

これらの要件を満たしている場合、家庭裁判所の許可を得る可能性が高くなります。

具体的な例としては次のようなものがあります。

具体的な事例

・子と親が同居している
・子と親が生計を共にしている
・亡くなった親が引き継ぎたい苗字を名乗っていた
・変更する苗字を戸籍上名乗っていた期間がある
・子がお墓を引き継いで行く必要がある
・子が親の事業を引き継ぐ
・通称名の実績がある
通称名とは?

氏の変更許可申立の場合、通称名の実績があることが好ましいですが、通称名の実績がなくとも変更許可された事例は多く存在します。
また、上記の理由の中でも次の方は、より変更が認められやすくなります。

認められやすい理由

・戸籍上、過去に長期間、引き継ぎたい苗字を名乗っていた
・亡くなった親が引き継ぎたい苗字を名乗っていた

ご自身の状況が変更されやすい状況かどうかが判断できない方は、氏名変更相談センターまでご相談下さい。

必要な書類は?

申立書
⇧クリックして拡大

苗字を変更する際、家庭裁判所へ申立書を提出する必要があります。
申立書はこちらからダウウンロードすることができます。
1枚目の記載については、該当する項目にそのまま記入して頂ければ問題ありませんが、2枚目の内容については、その内容によって変更されるかどうかが決まりますので、よく検討されて記入する必要があります。

戸籍謄本

戸籍謄本は、3か月以内に発行されたものを提出します。
氏の変更の場合、申立人の戸籍謄本のみで問題ありませんが、亡くなった親の苗字に変更する場合、その亡くなった親の戸籍謄本、親と子のつながりが分かる戸籍謄本も提出された方がいいです。
海外に在住されている方など、戸籍の取得が厳しい方は、氏名変更相談センターで代行取得することも可能です。

収入印紙・郵便切手

家庭裁判所で氏の変更に必要な費用は次の通りです。

改名にかかる実費

1.収入印紙800円

2.郵便切手200円~1500円ほど 

3.許可後 収入印紙150円

郵便切手の金額は管轄の家庭裁判所によって異なります。
郵便切手金額一覧」をご参考下さい。

変更を必要とすることが分かる資料

上記書類は、こちらよりご参考下さい。

通称名の資料

上記書類は、こちらよりご参考下さい。

過去の判例

裁判

過去の判例上、どのような内容が認められてきたのでしょうか?

許可事例

こどもが亡くなった親の苗字へ変更する判例

子供が亡き親の苗字への変更を求めた判例は、認められやすい、認められにくい、とどちらとも言えない傾向です。そのため申立内容には十分注意する必要があります。

民法791条は戸籍法107条の特例と解釈しうるので、亡父母の氏への変更申立においては、戸籍法107条のごとく氏の変更につき「やむを得ない」場合に限定せず、父母の氏への変更は原則として許可し、ただそれが個人の同一性識別としたがって取引の安全を害する場合に限り氏変更を制限すべきものである。

昭和43年12月16日/横浜家庭裁判所川崎支部/審判/昭和43年(家)893号/昭和43年(家)894号

氏および戸籍の実定的規定の上から、氏の家名、家籍的性格を容認せざるをえない以上、父母死亡後の子の氏変更を、氏に家名的観念を与える虞があるとの理由でこれを拒否することはできない。民法791条は親子の生活共同の有無とは無関係に親子が同一の氏を称したいという国民感情を容認したものだから、生存親子に限定されるものではない。父方祖先の祭祀を承継するために、死亡した父の氏に変更することの許可を求める申立が認容された事例

昭和36年2月21日/神戸家庭裁判所/審判/昭和35年(家)602号

事実婚のこどもが父親と同じ苗字へ変更する判例

認知された子が父親の氏への変更を求めた判例も、認められやすい、認められにくい、とどちらとも言えない傾向です。申立内容には十分注意する必要があります。

親権者父の監護下にある婚外子が父の氏への変更を申し立てた事案につき、父とその妻との婚姻破綻は夫婦間で解決すべき問題であり、戸籍が汚れるというのも既に認知の戸籍記載がある以上感情の問題に帰するとして申立てが認容された事例

昭和50年11月14日/東京高等裁判所/第15民事部/決定/昭和50年(ラ)502号

婚外子の氏の父の氏への変更については、子の父の妻その他の同一戸籍者が反対する場合には、特段の事情がない限り、その改氏を許すことは相当でない。子の兄が既に裁判所の許可を得て父の氏を称し嫡出子と同一戸籍に入っていること、右子は間もなく幼稚園に入園する予定であり、同居の父および兄と同一の氏を称することを希望していることなどの事情の下においては、父の妻の反対があったとしても子の氏変更を許可するのが相当である。

昭和46年1月30日/仙台高等裁判所/決定/昭和45年(ラ)63号

却下事例

こどもが亡くなった親の苗字へ変更する判例

民法791条は、現実に生活を共にする親子間においては、互いに同一の氏を称し、または称せしめたいという国民感情を基礎として設けられた規定であり、既に父母が死亡してしまった後にまで氏の変更を認める必要性はなく、子の氏変更は父母が生存中であることを要すると解すべきである。

昭和49年11月15日/大阪高等裁判所/決定/昭和49年(ラ)312号

事実婚のこどもが父親と同じ苗字へ変更する判例

認知された非嫡出子の氏を父の氏に変更することの許否を判断するにあたつては、氏ないし戸籍に関する一般の意識、国民感情に照らし、許可がなされることにより戸籍を同じくするに至る父の妻、嫡出子らの利害、意見等も無視することはできず、これを斟酌すべきものであり、過去の経緯等も加わつて本件氏の変更に反対しているのは無理からぬものがあるとして、許可は相当でないとされた事例

昭和59年3月30日/東京高等裁判所/民事第5部/決定/昭和59年(ラ)60号

家庭裁判所は子の氏の変更に異議を申立てる側の利害をも十分検討し、両者の利害得失を比較勘案の上許否を決すべき裁量を有する。本妻等が非嫡出子の子の氏の変更に反対感情を抱くことは一般の国民感情としてもつともと思われるし、しかも非嫡出子の同籍することが嫡出子の婚姻や就職の支障となりうることは現在における社会生活の実情よりみて一概にこれを否定しえないから、本妻等がかかる不利益を避けるため非嫡出子の子の氏変更に反対することは、単なる感情上の問題として一蹴しえないものといわざるをえない。

昭和44年4月25日/名古屋高等裁判所/決定/昭和44年(ラ)16号

こどもが親の苗字を引き継ぐ判例

基本的に通称名などの使用なく、親の苗字を引き継ぎたいのみの理由では、氏の変更は許可されにくい傾向にあります。

民法897条は、同条所定の祭祀の主宰者につき、右身分上の氏ないし呼称上の氏が祖先ないし従前の権利者である被相続人と同氏であることを要求するものでない。氏を異にする父から祭祀承継者に指定され承諾した子から戸籍法107条によって父の氏への変更を求める許可申請が却下された事例。 父母の離婚後、親権者母の氏に変更して、母の戸籍に入籍し、その後婚姻して夫の氏を称したが、夫の死亡後も復氏しないままでいる者が、父から祭祀承継者に指定され、これを承諾したうえ、父の氏への変更を申し立てた事案につき、民法897条は、祭祀の主宰者につき、身分上の氏ないし呼称上の氏が祖先ないし従前の権利者である被相続人と同氏であることを要求するものではないとして、これが却下された事例。

昭和59年5月30日/東京高等裁判所/第5民事部/決定/昭和59年(ラ)45号

祖先の祭祀の権利承継者となるために被相続人の氏に変更する必要があるとの理由は、「やむを得ない事由」にあたらない。 亡父の創設した事業(株式会社)の経営に参画し株主の支持をうるために被相続人の氏に変更する必要があるとの理由は、「やむを得ない事由」にあたらない。

昭和46年12月15日/仙台高等裁判所/決定/昭和46年(ラ)40号

母の実家の氏で、かつて同家の養子になつたことがあるなど深い関係のある氏であること、右氏の祖先の祭祀にあたりたいことを理由とする氏の変更の申立が、他に祭祀承継者がいることを理由に認められなかつた事例。

昭和24年12月15日/大阪高等裁判所/第2民事部/決定/昭和24年(ラ)70号

取下げ、却下された場合の対応

万が一申し立ての取り下げを勧められた場合、申立てが却下されてしまった場合どうすればいいのでしょうか?

詳しい内容は「改名を取下げるべき?却下された場合は?」をご参考下さい。

改名許可後の手続きについて

無事に苗字を変更することができた後はどういった手続きをする必要があるのでしょうか?
一般的には次のような手続きをする必要があります。

改名後の手続き一例

1.戸籍謄本、住民票の変更
2.マイナンバーの変更
3.健康保険、年金の変更
4.パスポートの変更
5.印鑑登録の変更
6.運転免許証の変更
7.銀行等の口座名義の変更
8.クレジットカード等の名義変更
9.不動産登記の変更
10.生命保険、医療保険等の変更
11.車検証、自賠責保険等の変更

改名許可後の手続きについては「改名許可後の手続き」で詳細に記載しておりますので、ご参考下さい。

まとめ

以上、家族の名字を引き継いでいくための方法などを記載させて頂きました。
母の旧姓、親の苗字を引き継いで行きたい方、手続きを専門家に依頼されたい方は、是非司法書士事務所エベレストまでご相談下さい。

 

氏名変更でお悩みの方は

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