・正しく苗字を読まれることがほとんどない
・外国人のような苗字で差別を受ける
・珍しい苗字のため余り名乗りたくない
弊所では、このようなご相談を頂く事がございます。
それでは、実際に珍しい苗字の場合、改名することができるのでしょうか?
この記事は「珍しい苗字の方が、実際に改名するための手続き・対策・ポイント」などを掲載しております。
※次のような記事もございます。該当される方はご参考下さい。
「苗字・名前の改名手続きを丁寧に解説」
「キラキラネームを改名するには?」
「帰化後に苗字を変更するには?」
目次
改名に必要な手続き
まず、戸籍上の苗字を改名するには、次の手続きが必要となります。
①家庭裁判所にて「氏の変更許可」を得る
②市役所に変更の届出を行う
②市役所への変更届出は提出すれば問題なく変更されますが、①家庭裁判所の手続きは、申立をしても必ず名前の変更が認められるというわけではありません。
家庭裁判所での改名手続き(費用・書類・期間・流れなど)を詳細に知りたい方は「苗字・名前の改名手続きの流れを丁寧に解説」をご参考下さい。
珍しい苗字は簡単に改名できる?
珍しい苗字であれば、簡単に改名をすることができるのでしょうか?
法律には次のようなものがあります。
「氏の変更」 戸籍法第107条
やむを得ない事由によって氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
つまり家庭裁判所からやむを得ない事由があると認められなければ、改名は却下されます。
それでは、裁判所からやむを得ない事由があると認められるためには、どうすればいいのでしょうか?
改名許可のポイント
どのような場合、珍しい苗字は変更できるのでしょうか?
まず、家庭裁判所が改名を許可するかどうかの一つの判断基準に、次の点を考慮して判断していきます。
1.改名の必要性が高く、動機は正当か
2.改名による社会的影響は低いか
これらの要件を満たしている場合、家庭裁判所の許可を得る可能性が高くなります。
具体的には次のような場合、改名が認められやすくなる可能性があります。
・苗字が難読、奇抜
・外国人と間違えられるような苗字
・変更後の苗字に正当性がある
・過去の判例に該当する苗字
・通称名の実績がある
苗字が難読、奇抜
前提として珍しい苗字を理由として改名する場合、戸籍上の名前が難しい漢字や読み方であったり、一般的なお名前と比べて珍しい、奇抜である必要があります。
ただし、単純に読みにくい、珍しいだけでは認められない場合がございますので、その他にも変更が必要となるやむを得ない事由を主張していきます。
外国人と間違えられるような苗字
外国人と間違えられるような苗字の場合、日本人であるにも関わらず差別的な対応をとられる、具体的に受けてきた被害の内容などを主張していくことで必要性を主張できます。
変更後の苗字に正当性がある
変更後の苗字が、離婚した父親の苗字や祖父母の苗字である場合、その苗字を引き継ぐ必要があるなど、その苗字を名乗る必要性を伝えていくことで変更に有利に働く可能性があります。
過去の判例に該当する苗字
過去の判例で読みにくい苗字、珍しい苗字であることを理由に変更が認められた苗字と同じ苗字の場合、変更の可能性があがります。
公開されている判例は少ないですが、変更が認められた苗字には次のようなものがございます。
大工、肴屋、赤畑、大楢
通称名の実績の有無
通称名(つうしょうめい)とは「戸籍上の名前でない世間一般において使用しており、通用している名前」のことをいいます。
例えば、戸籍上の名前が「太郎」であるにも関わらず、友人、会社、親族には「次郎」と名乗り、その「次郎」という名のことを通称名といいます。
原則、改名手続きは通称名の実績を積んでいくことで改名の可能性を上げていくことができます。
通称名の実績の積み方や証拠資料については「通称名とは?実績資料など大事なポイントを解説」もご参考下さい。
通称名の資料としては、次のようなものがございます。
・公共料金の明細
・年賀状
・手紙
・結婚式の招待状、席次表(座席表)
・注文書・納品書
・成績表
・卒業証書
・メール
・SNS(LINEやFacebookなど)
・契約書(契約相手には通称名であることを伝えておきましょう)
・名刺
・会社パンフレット
・新聞、地域紙(自分のことが掲載されているもの)
・健康保険証(会社が通称名で登録してしまうと発生します)
過去の判例
古い判例にはなりますが、難読を理由に改名を求めた過去の判例を掲載します。
許可の判例
「大工」なる氏は珍奇なものとは認め難いが、特定の職業を指称することは明らかで、申立人らは少なからず社会生活上の不便と苦痛を蒙り、ときには人格を傷つけられることもあり、その氏に嫌悪感を抱くようになつており、他方、申立人らの兄も既に改氏している事情の下では、氏の変更を求める申立は正当であるとされた事例
昭和50年9月13日/那覇家庭裁判所/審判/昭和50年(家)921号
「肴屋」という氏が、「魚屋」という特定の職業を連想させ、笑いの対象になり、小学生の子が学校や塾でからかわれるなどの諸般の事情から、一般に社会生活上の苦痛と不便を感ずる不利益が考えられなくもないとして、新たに称したいとする氏が妻の婚姻前の氏であることの妥当性も考慮して、氏の変更に正当の事由があるとした事例
昭和61年7月17日/長崎家庭裁判所/審判/昭和61年(家)928号
不許可の判例
戸籍上の名は個人に対する同一認識の基礎をなすものであるから、その変更を許可するためには戸籍法107条の2に規定するとおり「正当な事由」があることを要するのであって、その事由とは珍奇ないしは著しい難解・難読の文字を名に用いてあることその他によってその者の社会生活上にかなり著しい支障をきたす場合等をいう。「馬茂(うましげ)」という名は必ずしも珍奇・低俗な名ではなく、またこの名のために社会的信用がそこなわれるとは認めることができないから、本人の主観的な苦痛を考慮にいれるとしても、いまだ名の変更について「正当な事由」があるものということはできない。
昭和35年6月11日/高松高等裁判所/決定/昭和35年(ラ)36号
「清吉」という名が現代にそぐわない奇異感を与え、小学校教諭の職にある者として堪えがたいこと等を理由に申し立てた名の変更が認められなかつた事例。
昭和43年9月19日/大阪高等裁判所/民事第5部/決定/昭和43年(ラ)267号
簡単にできる「読み方」の変更
戸籍上の名前を変更することには、家庭裁判所の許可がいりますが、名前の「読み方」を変更する場合、特に家庭裁判所の許可などは不要です。
また読み方の変更は役所へ届け出をすれば問題ないところが多いですので、お住いの市区町村役所に電話してみて読み方の変更方法を確認しましょう。
ただし、パスポートの読み方の変更などは戸籍上のお名前が変更されないと読み方も変更できない場合がございます。
読み方の変更に関する詳細内容はこちらの記事をご参考下さい。
名前の読み方の変更と注意点
却下された場合
万が一申し立てが却下されてしまった場合は、どうすればいいのでしょうか?
方法としては次の方法があります。
・却下の判決をうけてから2週間以内に即時抗告の申立てをする方法
・通称名の実績を積み上げて再度申し立てる方法
詳細な内容については、こちらの記事をご覧ください。
改名を取下げるべき?却下された場合は?
改名許可後の手続き
無事に改名することができた後はどういった手続きをする必要があるのでしょうか?
一般的には次のような手続きをする必要があります。
1.戸籍謄本、住民票の変更
※住所が日本にない方は、改名許可後の戸籍の変更届を本籍地の役所へ提出することになります。
2.マイナンバーの変更
3.健康保険、年金の変更
4.パスポートの変更
5.印鑑登録の変更
6.運転免許証の変更
7.銀行等の口座名義の変更
8.クレジットカード等の名義変更
9.不動産登記の変更
10.生命保険、医療保険等の変更
11.車検証、自賠責保険等の変更
改名許可後の手続きについては、こちらで詳細に記載しておりますので、ご参考下さい。
改名許可後の手続きについて
まとめ
珍しい苗字を改名する手続きについてまとめさせて頂きました。
珍しい苗字で大変な思いをされることも多いかもしれませんが、家庭裁判所で苗字を変更するには高いハードルを越える必要があります。
今すぐに変更をされる方でない方は、今のうちから通称名の実績を積まれるのが良いかもしれません。
ご自身のお名前が改名ができるのかどうなのかなど、弊所にご相談頂ければお答え致しますので、必要であればご相談下さい。