・養親が亡くなったので苗字を旧姓に戻したい
・養親の親族との関係を終了させたい
・養子関係を終了させる手続きが分からない
上記のような相談を頂きますが、養親、養子が亡くなった後で養子縁組の関係を終了させるには、どのような手続きが必要なのでしょうか?
また、どのような人が死後離縁をする必要があるのでしょうか?
養子縁組した養子の名前を変更されたい方は「養子の名前を変更するには?」をご参考下さい。
目次
養子縁組の効果について
まず養子縁組によりどのような効果が発生するのでしょうか?
主に次のような効果が発生します。
①養子が嫡出子の身分を取得する
②養子の氏が養親の氏になる
※婚姻して氏を変更した人を除く
③養親の戸籍に入籍する
※養子が婚姻している場合などを除く
④養子縁組によって形成された直系血族間、直系姻族間での婚姻ができなくなる
①養子が嫡出子の身分を取得する
養子は養子縁組により養親の子供と同じ身分を取得します。
つまり、養親が亡くなれば養子には相続権がありますし、養子は養親の扶養義務などが発生します。
②養子の氏が養親の氏になる
養子は養子縁組により養親の氏に変更されます。
ただし、結婚して苗字を相手の姓に変更された方などは養子になったとしても、婚姻期間中は苗字は変更されません。離婚した場合、苗字は養親の苗字となります。
③養親の戸籍に入籍する
養子は養子縁組により養親の戸籍に入籍します。
ただし、戸籍は3世代記載することを禁止しているため、養子が婚姻している場合などは、養親の戸籍には入ることはできません。その場合、養親の苗字となった新しい戸籍ができます。
④養子縁組によって形成された直系血族間及び直系姻族間での婚姻ができなくなる
養子縁組をすることで養親側(養親、養親の父母、祖父母)と養子側(養子、養子の配偶者、養子の子供)は婚姻をすることができなくなります。
これは、養子縁組を解消しても継続されます。
どのような人が離縁手続きをすればいいか?
上記のような養子縁組による法律効果を解消させたい方が離縁手続きを行います。
①養親との親子関係の解消
②養子縁組前の苗字に変更
※但し、養子が死亡した死後離縁の場合、養子の苗字は縁組前の苗字に変更されません。
①離縁前に発生した相続
②養子縁組により発生した直系血族間、直系姻族間での婚姻禁止
養親、養子が亡くなる前に離縁をすれば、養親、養子は相続人とならないため、相続することはありませんが、養親、養子が亡くなった後に離縁をしても、相続した財産を返却する必要はありません。
それでは離縁の手続きにはどのような種類があるのでしょうか?
離縁手続きの種類
離縁手続きの種類は次の通りです。
①協議離縁
②調停離縁
③裁判離縁
④死後離縁
①協議離縁
養親と養子が協議し役所へ届け出をすることで離縁をすることができます。
養子が15歳未満の場合は離縁後の法定代理人と養親で協議することになります。
②調停離縁
養親、養子の協議離縁がまとまらない場合、養親または養子が家庭裁判所に申し立てをすることで、裁判所の裁判官・調停委員を交えて離縁について話を進めることができます。
基本的には、養親と養子が交互に部屋に入り、調停委員から別々に聞き取りが行われるため、相手と顔を合わせない形で話を進めていきます。
養子が15歳未満の場合は離縁後の法定代理人が手続きを代理します。
③裁判離縁
調停離縁でもまとまらなかった場合、裁判離縁の訴えを起こすことで裁判所から強制的に離縁の成立を求めることができます。
ただし、裁判所が離縁を認めるには次のいずれかの事由が必要となります。
・相手方から悪意で遺棄されたとき
・相手方の生死が三年以上明らかでないとき
・その他縁組を継続しがたい重大な事由があるとき
④死後離縁
死後離縁とは、養親、養子のどちらか死亡した後にする離縁ことをいいます。この手続きにも家庭裁判所の手続きが必要となります。
死後離縁について
どんな手続きが必要?
死後離縁手続きは、家庭裁判所での手続きが必要となります。
手続きは住所地の家庭裁判所で行います。
管轄を調べられたい方は、「裁判所の管轄一覧」をご参考下さい。
簡単にできるの?
判例の傾向としては、基本的に家庭裁判所の許可は得られやすい傾向にあります。
祖父に当たる養親と縁組をした抗告人が,養親の死亡後に,離縁についての家庭裁判所の許可を求めた事案において,養親と抗告人の縁組が養親の財産を抗告人が相続することを目的としてされたものであっても,養親と抗告人との間に法定血族関係を形成する意思がある限り,直ちに縁組を無効とすることはできず,死後離縁の申立てが法定血族間の道義に反する恣意的で違法なものと認めるに足りる事情もないとして,申立てを許可した事例
令和1年7月9日/東京高等裁判所/第24民事部/決定/平成30年(ラ)1977号
ただし判例にも記載ある通り、死後離縁の申立てが法定血族間の道義に反する恣意的で違法な場合、却下になる可能性があります。
具体的な事例としては次のようなものです。
①相続、扶養等で多大の利益を受けながら、不当に扶養義務のみを免れる場合
②亡養子に未成熟子がいる場合に、離縁がその子の生活に重大な支障をきたす場合
手続きする人は?
家庭裁判所で死後離縁の手続きができるのは、次の方です。
・養親
・養子
※養子が15歳未満の場合、生存している法定代理人
生存養親等の生存法定代理人がいない場合、いなくなる場合、離縁後の法定代理人
養子が15歳未満であれば、子供が家庭裁判所へ出廷等する必要なく法定代理人が全ての手続きに対応できます。
費用・料金は?
1.収入印紙800円
※1人につき
2.郵便切手400円~3000円ほど
※家庭裁判所での実費を記載しており、郵送費、交通費、戸籍謄本代などは除いております。
郵便切手の金額は、申立人の人数、管轄の裁判所によって金額は異なります。
管轄の家庭裁判所に連絡をして、「死後離縁手続きで、郵便切手の金額を教えて頂きたいのですが」とお伝えすると、口頭で金額をお伝え頂けます。
死後離縁 (1人につき) | 郵便切手の金額 |
東京家庭裁判所 | 500円×2枚 84円×6枚 10円×5枚 5円×2枚 |
札幌家庭裁判所 | 500円×2枚 84円×7枚 10円×2枚 5円×1枚 |
名古屋家庭裁判所 | 500円×2枚 84円×8枚 50円×1枚 20円×1枚 10円×2枚 5円×1枚 2円×2枚 |
大阪家庭裁判所 | 84円×5枚 10円×5枚 |
福岡家庭裁判所 | 500円×2枚 84円×6枚 50円×1枚 20円×2枚 10円×5枚 5円×1枚 1円×5枚 |
※支局によっても金額が異なります。
※使用しなかった切手は、手続き後返却されます。
※2020年11月3日更新
期間・日数は?
死後離縁の手続きは、どのくらいかかるのでしょうか?
こちらの内容は、あくまで名古屋家庭裁判所の手続きの目安期間です。
管轄の裁判所によっては、期間の違いはあります。
それぞれ細かい部分も見ていきましょう。
一般的な期間:25日~60日
1.家庭裁判所へ申立準備:1日~7日 ※①
2.家庭裁判所の手続き:7日~30日 ※②
3.死後離縁許可の審判確定:14日 ※③
4.役所の手続き:1日~7日 ※④
※①戸籍謄本の取得、申立書の作成等
※②照会書の提出、審問、審判書の通知等
※③許可後、14日を経過しなければ変更できません。
※④戸籍謄本の取得、戸籍の変更届の提出等
必要な書類は?
家庭裁判所で死後離縁の手続きをする場合に必要となる書類は次の通りです。
①申立書
②養親・養子の戸籍謄本 ※死亡の記載あるもの
③収入印紙・郵便切手
①申立書
こちらは家庭裁判所にあげられている申立書の記載例です。
死後離縁の許可申立書はこちらからダウンロードすることができます。
申立理由について注意して記載下さい。
②③養親・養子の戸籍謄本
死後離縁許可の申立では、養親・養子の戸籍謄本が必要となります。
養親・養子が同一の戸籍にいる場合は、1通で戸籍を兼ねることができます。
また戸籍謄本については、発行から3か月以内のものである必要があります。
本籍地が遠方の方は、戸籍謄本を郵送で取得することも可能です。
「○○役所 戸籍 郵送」とインターネットで検索して頂ければ、請求方法が出てきます。
海外に在住されている方など、郵送ですら厳しい場合は、氏名変更相談センターで代行取得することが可能です。
家庭裁判所への申立後の手続きについて
申立後にすることは?
死後離縁許可の申立後にする事は次の通りです。
必ずどちらも行われるという訳ではありません。
書面照会だけ、審問、参与員の聴き取りだけ行われる場合もあれば、全て行われる場合、何も行われない場合もあります。
管轄の家庭裁判所が、どの手続きをするかのを決めていくので、申し立てをした後は、家庭裁判所から連絡を待ちしましょう。
書面照会、審問とは?
書面照会(照会書)とは?
上記はあくまで見本ですが、上記の書類のように死後離縁についての質問内容が家庭裁判所から書類で送られてくる場合がございます。
裁判所宛の返信用封筒も付いており、内容を記載し一定の期日(基本的には2週間)までに返送します。
審問・参与員の聴き取りとは?
死後離縁の申立後、家庭裁判所から面談のための期日調整の連絡がある場合がございます。その日程が決まると上記のような書類が送られてきます。
審問・参与員の聴き取りとは、申立人や法定代理人が家庭裁判所に出廷し、参与員・裁判官から確認したい内容について質問され、それに答えていく手続きの事をいいます。
期間・日数は?
一般的には、申立後、1.2週間ほどで家庭裁判所から連絡がありますが、忙しい家庭裁判所では何カ月も連絡がない場合もあります。
不安な方は家庭裁判所に進捗の確認をすることも可能です。
家庭裁判所での死後離縁手続きの進め方は、次の4パターンあります。
①書面照会のみ
②裁判所から面談の日程調整の連絡→参与員の聴き取り・審問
③書面照会→裁判所から面談の日程調整の連絡→参与員の聴き取り・審問
④書面照会・審問など無く死後離縁の許可
一般的には①②のパターンが多く、それぞれ1.2カ月ほどかかる場合が多いです。
③の場合、2.3カ月ほどかかるときもあれば、④の場合、申し立てをしてから1週間後に許可審判の通知が来ることもあります。
結果の連絡方法は?
書面照会(照会書)、審問等が終わると、面談日当日に結果が言い渡されるか、1,2週間前後で通知されます。
裁判官の死後離縁許可申立についての判断を審判と言い、許可されれば許可審判書が、却下されれば却下審判書が通知されます。
却下の場合は、事前に取り下げを催促される場合もございます。
なお、死後離縁の許可後は、家庭裁判所へ確定証明書を請求する必要があります。確定証明の申請書は、許可審判書と同封されて送付されます。
市区町村役所の手続きについて
死後離縁の許可された後は、 養子離縁届を養親または養子の本籍地または所在地の市区町村役所へ提出する必要があります。
上記届出をすることで養親、養子の戸籍が変更されます。
養子離縁届を提出すると養子は原則、元の氏(養子縁組前の氏)に戻ります。ただし、養子縁組の期間が7年を超える場合、養子縁組中の氏を名乗ることができます。
離縁の届出を役所に提出する際に必要となる書類は次の通りです。
1.養子離縁届書
2.本人確認書類
3.認印
※本籍地以外の役所に提出する場合
…戸籍全部事項証明書
※死後離縁、裁判離縁の場合
…許可審判の謄本および確定証明書
死後離縁の手続きをすることで苗字が変わるため次のような届出などをする必要があります。
1.戸籍謄本、住民票の変更
2.マイナンバーの変更
3.健康保険、年金の変更
4.パスポートの変更
5.印鑑登録の変更
6.運転免許証の変更
7.銀行等の口座名義の変更
8.クレジットカード等の名義変更
9.不動産登記の変更
10.生命保険、医療保険等の変更
11.車検証、自賠責保険等の変更
こちらは名前変更許可後の記事ですが、離縁届出後の手続きで共通する点が多いので「名前の変更許可後の手続きを徹底解説!」もご参考下さい。
まとめ
死後離縁許可の申立を検討されている方が、この記事を読まれて少しでも参考になればと思います。
司法書士事務所エベレストでは死後離縁の手続きも対応しておりますので、死後離縁の手続きをされたい方は、お気軽にご相談下さい。